劇場公開日 2017年3月11日

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「脅威の名画」クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 ローチさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0脅威の名画

2019年6月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

画面が暗い。しかし、その闇の深さに吸い込まれる。誰が喋っているのか視認しづらいほどの遠景ショットの多用に加え、暗くてそもそも顔が見えない、そしてエピソードが線でつながっておらず、点の集積であるようなこの作品は分かりづらいが、観るたびに初めて観るような感動を覚える。なぜ少年は少女を殺してしまったのか、明確な裏切りを知ったわけではない、若さゆえの勇み足もある、しかし、その不明瞭な動機は、当時の台湾の不透明さを背負っているようでもある。本作は中国から渡ってきた外省人の家族を描くが、本省人と外省人の争いではなく、外省人の若者たちの争いが描かれている。大人たちは本土に帰れるか不安に感じ、しかし子供世代はすでにアメリカ社会への憧れが芽生えている。世代によって向いている方向が全く逆であるのは興味深い。台湾の置かれた国際情勢がその親子関係にも現れているように思える。理不尽が理不尽を呼ぶ展開だが、確かに世界はこうなっていると納得させられる。何回観ても圧倒される、とてつもなくすごい作品だ。

杉本穂高