劇場公開日 2017年3月11日

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「事件」クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 JustAChildさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0事件

2017年3月27日
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この映画の中のワン・チーザン(リトルプレスリー)の出演シーンはすべて真に素晴らしいと思う。思うにエドワード・ヤンがもしアメリカを舞台にして青春映画を撮っていたらDRMの『アメリカン・スリープオーバー』のような、いやさらに青春映画の地平を広げたようなものを撮ったかもしれない。そう妄想すると何か別のもう一本の映画ができそうでかなり楽しい。

それから、これは重要なことなんだけど、このあとの「恋愛時代」「カップルズ」といった作品のほうを偏愛している自分的にはこの流れでこれらの映画の再評価がなされたら本当に嬉しい。

この映画を僕は学生時代に大学図書館の(確か)LDで初めて見た。伝説の大傑作と言われているのはもちろんすでに知っていたけど、この長尺の作品を大学図書館にあるその小さいブースで見終わったときにはしばらく呆然として身動きがとれず、思考停止状態になった。

この映画の上映の権利の行方が実はどこそこのなにやら如何わしいとある個人か団体かに流れてしまっていて、そこからにっちもさっちもどうにも動きそうにないのだという、まことしやかな噂は昔から有名な話だった。その後、どうやら権利問題は解決して公開にまでこぎつけれそうだという噂も幾度かあったように思う。そんな噂が途切れては聞こえ途切れては聞こえ二十数年が経ってしまった。そのあいだ、中古市場では値段が高騰しレンタルではすでにかなり消耗してしまっているVHSテープ(しかも二巻に別れてなおかつ短縮版!)を見ることでみんなこの空白をどうにか慰めていた。だから、一昨年末のまさかのクライテリオン版リリースが聞こえてきたときの「うわぁ、"クーリンチェ"がブルーレイで見れるようになるのか!」という多くの人の異様なまでの興奮は大げさなものでもなんでもない。僕にしたって、やはり他聞に漏れずこれまでに四度か五度はソフトを消費することで空白を埋めてきた。なぜならそんな僕らもまた別の角度ではみな慎重だったからだ。「公開はまたどうせ無理なんでしょう?」
"クーリンチェ"のスクリーンにおける不在は深い諦観を色濃く刻ませていたのだ。こうしたことを鑑みれば今回の公開がまさしく「事件」であることを理解してもらえると思う。

たったいま目の前にあるスクリーンのほうへ手を伸ばして触れでもしたら、その箇所からシャオスーたちが吸っている湿気に満ちて、でもやたらと冷たそうな空気が、あの長くてデカいめちゃかっこいいマグライトの光線と、大きく鋭い針糸がまるで無数に飛んでくるかのように暴れる夜の台風とか、リトルプレスリーの愛くるしい歌声とか、シャオミンの撃った銃弾とかシャオスーの浴びた返り血とか、何よりあの深く美しい噎せ返るような夜闇が全部一緒くたになって溢れ出してくるんじゃないか、そういった強迫観念にいまだ駆り立てられる。

JustAChild