「アスパラガスのかほり」ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)
アスパラガスのかほり
フラストレーションの向けどころがわからない少年、世間への反骨心から厳格に振舞う老教師、夫と息子を失った女性の3人が、他者の痛みを知ることで自分の殻から抜け出し、前に進みなおす物語。
クリスマスを舞台にした映画と言えば、少々ハードな物語でもハートウォーミングな時間を挟むのがセオリーだが、本作では家庭的な空気や慈しみは登場人物達の孤独を際立たせるものとして機能し、開放的なシーンでも背景には冷えた空気を感じさせる。
物語が進むにつれ彼らの孤独のバックグラウンドが明らかになり、それには少なからず共感する部分がある。劇中のマジョリティ=名門校のテンプレ的な人物像からはみ出た人ほど共感できそうな人物造形が巧みだった。
ただでさえ「クリスマス=家族の時間」というぼっちに厳しい文化の中、舞台が名門校なので生徒も教師も「帰る家があって当たり前」という仕組みが出来上がっており、日頃からその空気を吸ってきた彼らの心中は察して余りある。
気になったのは、彼らが衝突するシーンの多さだ。登場人物達は孤独を拗らせているがゆえに他者に対して攻撃的だったり冷淡だったりする。上述のようにストレスMAXの状態で休暇に入ることもあり、序盤から一触即発の空気が流れている。会話の多くが悪口の類で、機知に富んだシニカルさやウィットの使い道が悪意に全振りされており、彼らが日頃いかに相手の気持ちを考えた言動から離れているかを示していた。中にはデリカシーゼロな言葉や現代なら眉を顰める発言も出て来る。
罵詈雑言として出て来るのは自分が言われたくないこと、という見方で言えば、彼らは悪口の引き出しがたっぷりあるのだろう。正直、衝突の描写にここまで時間をとる必要があるだろうかと疑問を持ったし、一線を越えた悪態や中傷を何度も言わせる必要があるのかと感じた。
八つ当たりじみた衝突を経て、徐々に彼らは自分だけでなく相手もまた痛みを負っているのだと理解し、ぎこちなくも距離を縮めていく。その近付き方がなんとも不器用かつリアルで、また睦まじい空気に座りの悪さを感じるぼっちらしいリアクションも微笑ましかった。安易な感動物語や仲良し路線にしないという、作り手の強い意志を感じた。
衝突から始まりそれが軟化するカタルシスがあるドラマではあるが、劇中のマイナスとプラスが釣り合っているとは言い難かった。クリスマス休暇の共同生活を経て踏み出す彼らの新しい日々に、観客が見出す希望でプラスを補う物語なのだろう。苛烈な暴言に耐え、エンディングのその先をポジティブに想像できるような、心が健康な時に観ることをすすめる