劇場公開日 2024年2月2日

「都会と森に降る雨、木々のざわめき、遠くと近くの音」Here あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0都会と森に降る雨、木々のざわめき、遠くと近くの音

2024年4月10日
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鑑賞方法:映画館

冒頭、工事現場の遠景から始まり、しばらく場面は固定する。この時、遠くからの工事現場の音と、近くからの風や鳥の声、水音といった2種類の音が聞こえることに気付く。音が重層に聞こえることでイメージはより立体的になり映画世界がぐっと引き寄せられる。
映像と音響が映画にとって最も大事な要素であることは間違いない。だから終始、重層的な音響設計をしている時点でこの映画は非凡であると断定できる。
そして映像。16mmで撮影されている。シュテファンが寝ているシーンに電車の映像がかぶさるところ、ひょっとしてアナログなオーバーラップ編集をしているのかと思った。もちろんそんなことはなく、エンドクレジットを見ると2KデジタルへのスキャニングもしているしVFX処理もやっているのだが。でもそれを感じさせない柔らかく美しい映像である。シュテファンが同僚たちと草むらで持参のスープを食べるところ。一瞬、ピントがボケるようなところもあるし解像度は低いのだがかえって自然で光や温度、風まで感じ取ることができる。「PERFECT DAYS」の木漏れ日の映像が美しいと言っている人は是非観てほしい。あれがどれほど人工的な影像なのかわかるから。
そして雨のシーン。街なかで、森の中で、雨が降りそそぐ。これがまた美しい。
ドラマ自体はそれほど意味をもっているものではない。監督自身は祝祭的世界観とかいっているようだが。要するに苔を通して人間本来の生命力を表現しているということなのだろう。
てもその主題のためにも影像と音声が秀でていることが必要となる。
その意味では「オッペンハイマー」とこの映画はとても映画的な映画であるところは共通している。もちろんあちらはIMAXフィルムでこちらは16mmである。核兵器と種子島銃みたいなものだけど。

あんちゃん