劇場公開日 2024年1月26日

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「秘密を持つことで心の陰影がより濃く深くなる。少女の心の成長」コット、はじまりの夏 あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0秘密を持つことで心の陰影がより濃く深くなる。少女の心の成長

2024年2月14日
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鑑賞方法:映画館

少女の名前はCáit。発音としてはコットというよりはコーットに近い。アイルランドには割とある名前でpureという意味を持つようだ。
本作はまだこの何にも染まっていないpureな少女の心の動き、心の成長を丹念に丹念に描く。博打好きで粗暴で世渡り下手な父親と、生活に疲れきった母親。姉たちにも邪険にされ心の拠り所がない。極端にいうと牛と同等の扱いをされることにより本能的な危険からの逃避、隠れることだけが心の大半を占めている。
でもショーンとアイリーンと暮し、気を配ってもらい、構ってもらい、愛情を注がれることによって心の様相が変わっていく。そして農場の自然に触れ、人間の赤ん坊や牛の仔と接し、人の死をも体験することによって心は豊かになっていく。つまり心のひだが深くなるというか陰影が濃くなっていくのである。
最後に重要なのは秘密をもつことである。両親のもとに帰る数日前、コーットは水を汲もうとして泉に落ちてしまい風邪をひく。このことはコーットとショーンとアイリーン3人だけが知り両親には秘密である。夏休み前のコーットは秘密はいけないという母親の教えを機械的に繰り返すだけの子どもだった。でもショーンとアイリーンの秘密に触れ、そしてついにはその2人とも秘密を共有することになった。人の心には、他のひとにはうかがい知れない密やかな影があり、それだからこそみずみずしく奥深い。まるでアイルランドの大地のように。

あんちゃん