「小さな優しさ」コット、はじまりの夏 sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
小さな優しさ
ひとりの孤独な少女が、新しい環境で少しずつ自分の居場所を見つけていく様を繊細なタッチで描いている。
観客と登場人物の間にある絶妙な距離感を抱かせる作品だった。
説明的な描写はなるべく避けているようで、主人公のコットが抱えている孤独感にはじめは共感することが難しい。
コットは両親と姉弟たちに囲まれて暮らしているが、どこか馴染めないでいる。
国語の授業では音読がままならず、学校でも変わり者と蔑まれ居場所を見付けられないでいる。
そんな彼女を夏休みの間だけ親戚夫婦であるショーンとアイリンが預かることになる。
コットを送り届ける父親のダンの態度は冷たく、まるで彼女は口減らしのために厄介払いをされたようだ。
どこかこの世界と繋がれないでいるコットを、アイリンはとても優しい言葉で受け入れる。
コットの受け答えのほんの過ごしのズレが、彼女の生きにくさを物語っているようだ。
特に大きなドラマは起こらない作品だ。
コットとショーン、アイリンの間で劇的なやり取りが行われるわけではない。
それでも彼らがコットに示す小さな優しさが、少しずつ彼女の心を解きほぐしていく。
たとえばアイリンはおねしょをしてしまったコットに対して、マットレスに水が染みていたのだと弁解し、彼女の罪悪感を拭い去ろうとする。
ショーンは黙ってコットの前に自前のお菓子を置く。
彼がコットに走ってポストから手紙を取りに行かせるのも、彼なりの思いやりなのだろう。
コットに対していつも穏やかな二人だが、実は彼らが過去に最愛の息子を亡くしていたことが分かる。
コットはその亡くなった息子の着ていた服を身に着けていたのだが、彼女はそんな二人の悲しい過去には気づかずにいた。
やがて夏休みが終わりに近づき、コットは自分の家に戻ることになる。
どうやら彼女には新しく弟が出来たらしいが、その報せにも彼女は興味がない素振りをする。
彼女が誤って井戸に落ちたのは、少しでも帰る時間を延ばしたかったからだろうか。
感情の高ぶりをあまり見せないコットが、最後に去っていくショーンとアイリンを追いかける姿に心を打たれる。
これからコットがどのように世界と向き合っていくのか、映画の余韻の中で考えさせられた。