「雄大な時間と小さな変化」コット、はじまりの夏 Ao-aOさんの映画レビュー(感想・評価)
雄大な時間と小さな変化
映画というメディアが持つひとつの特性に“時間の流れ”の描き方というのがある。故に映画は時に時間軸をずらして見せたり、前後の時間を入れ替えるなどの魔法を使って観客を翻弄し、魅了する。では、本作の時間の描き方はどうだろうか?複雑な時間のトリックはない。だが、木漏れ日溢れる美しい自然美を背景に映し出しながら、ゆったりと流れる時間を観客に堪能させる。これは実に贅沢な映画体験だ。
コットが走り出す、手を繋いで水を汲みに行く、農場の手伝いを行う、そんな些細なシーンの一つ一つにこそ彼女の心身の成長が垣間見られる。そして、それは同時にコットを預かる親戚夫婦の心の隙間を埋めていく。髪を梳かす、街に買い物に行く時に渡すお小遣い、洋服を試着したコットを見つめる表情。直接的な言葉は使わないものの、それら全てが偽りのない愛の形として描かれていく。
だが、その雄大な時間の流れもやがて終わりを迎えることとなる。実際、そこからの展開は早く、寒々しくも映る。しかし、親戚夫婦と過ごした時間の中で確実に起こった小さな変化の蓄積こそが最後に大きな感動を呼ぶ。一度見ただけで理解したとするには勿体ない作品であり、特に舞台となる夏の終わりにこそ繰り返し観たくなるであろう良作に出会えた。
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