WILLのレビュー・感想・評価
全5件を表示
自分の生きる(活きる)環境を探す大切さ
エリザベス宮地監督の作品は初見。東出昌大さんの出演作品は『桐島、部活やめるってよ』、『ごちそうさん』、『クリーピー 偽りの隣人』、『Winny』を観賞済。
初めて東出さんを見たのはNHK朝ドラの『ごちそうさん』で、当時から新人で素朴な存在感ながらも”役を演じる”のではなく”その人間を乗り移らせている”かのような演技力の巧みさに目を惹かれた記憶があり、それ以降東出さんの主演作を観てみたいと思いつつも機会を逃し、例のスキャンダルが報道されてからは更にその機会を逃していた。
だけど、最近になって東出さんの狩猟生活に密着したyoutubeチャンネルを見たり、作品のあらすじや東出さん本人のインタビューを読んでいく中で、自分の中で東出さんに対して無意識下のバイアスが掛かっていたことに気づき、その無意識下のバイアスで東出さんを判断しない為にこの作品を観てみた。
観終わって思ったのは東出さんへの密着を通して”都会の人間が如何に加工品ばかり摂取しているか、自分の生きる(活きる)環境を探す大切さ”に気づかされたことだった。
東出さん自身が猟銃を携え、動物を探し仕留めて解体していくまでのシーンを規制やモザイク無しで映していたり、作中で東出さんが「動物を解体することなく加工肉を食べていることで、それぞれの生き物を殺し命を戴いてるという事実から目を逸らしてる」(意訳)っていう趣旨の言葉を考えると、普段見ているテレビはもちろん、”テレビじゃ出来ないことが出来る!”みたいな言われ方をしてるyoutubeでも依然モザイク処理はされ、言えない言葉は規制音が入るなど規制が強まっていき、食品に対して”ひとつひとつ命を頂いている”とバイアスなく捉えているつもりの自分も食品以外に目に入るものも加工品ばかりを摂取し、物が壊れたら自分で直すんじゃなくすぐ買い直す・今の家電や機器で満足しているはずなのに次の世代のものが出たら乗り換えるなど、そのものの本質を見ていないことに気づいた。
見ているものに関しては、自分の中でグロテスクやホラーに対する嫌悪感・恐怖が以前より増していることを最近感じていて、その原因を考えてみると地上波で放送されていたホラーや実録事件を取り扱った番組、ドキュメンタリーを不意打ちで見る機会が減っていること、それらの番組を不意打ちで見ることで耐性を付け生命の危機に相対した時の対処法を知り、備えていたことにも気づいた。
ショッキングな表現を見てパニック発作やトラウマを刺激される人、いじめを助長するような制作体制・番組など規制が必要な場合もある前提で、今コンプライアンスでホラーや実録事件を取り扱った番組、ドキュメンタリーなど、”危険性を伝える、危険に備える為の番組”も一緒くたに規制されてしまうことが結果的に生きる為に必要な情報を切り落としてしまっているように感じられた。
そんな加工品を嫌い、口に入るものだけじゃなく調理器具や衣服が壊れたり破れた時に自分で補修する東出さんは、人を見聞きして知るすることも人を介して加工された情報を入れたくないからこそ拠点を地方の山中にして撮影の時だけ都会へ赴く生活を選んだように、そして(結婚しているのに不倫してしまったのは悪いっていう大前提はありつつ)そんな加工品だらけの都会にいたからこそ病んでしまったようにも感じられた。
そんな生活を選んだ東出さんだけを密着していくのかと思いきや、狩猟生活をしている東出さんから東出さんがいつも接してる狩猟仲間のハンター、東出さんが狩猟生活をしていると聞いてスキャンダルがあるんじゃないかとやってきた(俗に言うパパラッチに近い)カメラマン、そんなスキャンダルを載せる週刊誌の編集者と、作中スポットライトの当たっていく人達が現代社会で”悪役”と見られる人々だったり炎上するような仕事をする人々で、そんな職業で働いている人一人一人のその職業をしていくまでの話・その職業をする意義を(その職業に直接接する機会がない観客が)聞くことで、その職業に抱いていたバイアスが東出さんへ抱いていた無意識下のバイアスにも通じていたように感じるし、東出さんやそんな人々に対してのメッセージに思えるMOROHAさんの剥き出しな曲も素晴らしかった。
スキャンダルで人を判断すること、観ないことでその人の“再起の機会”を奪ってしまうこと。
それが善意か悪意かに関係なく誰かを簡単に切り捨てる世の中の怖さを、この映画を通して改めて感じた。
言葉や映像を加工せず、全て映し出す構成になっている理由は最後に明かされるものの、監督がその構成にしたのは、東出さん自身が接した”信用する人”には誤解されることを恐れないように、”この作品を終わりまで観てくれる観客”一人一人を信用してくれてるからと思える、現代へ生きている人々に対する教養であり教育であり哲学でもあるし、東出昌大さんが山奥で狩猟生活(生きる場所)をしながら“俳優”って職業(活きる場所)を続けていくことの理由や意志(遺志)がおのずと分かったり感じることが出来るような作品だったと思うし、だからこそ彼の出演作を避けていた人にこそ観てほしい作品だと感じた。
タイトルなし(ネタバレ)
もの凄くリアルな生と死が描かれた映画。
普段、死は特別で遠い出来事と思っていたが、生の隣には死があるんだと感じられた。東出さんがクローズアップされがちだと思うが、東出さんの生き方を通してもっと大きな自然の営みを感じられ、私たちもその一部であることを再確認した。
個人的には、昔ながらの猟師が今の猟師の問題を語るシーンや、「(野生の)熊の肉がおいしい。」というセリフ等が印象に残っている。スーパーの肉とは違う生命の味なんだろうな。
この映画、世界の人に観てもらいたい。
鹿が死んでも目を閉じないのは、命が繋がっていく様を直視したいからなのかもしれない
2024.2.29 アップリンク京都
2024年の日本映画(140分、G)
北関東で猟師をしている俳優・東出昌大を追ったドキュメンタリー映画
監督&編集はエリザベス宮地
物語の舞台は北関東のとある村&東京
不倫スキャンダルから事務所解雇に至った頃に、北関東に移住をすることになった東出昌大の日常を追っていく
主に2021年11月から、22年9月ぐらいの約1年間の密着を元に構成されている
その期間は、ちょうど不倫スキャンダルで謝罪会見を終え、その後、舞台『悪魔と永遠(演出:川名幸宏)』での復帰、映画『福田村事件(監督:森達也)』の撮影時期となっている
また、報道されなかった女性猟師のマツハシとの関係、彼が移住することになった経緯などにスポットライトが当たっていく
映画は、狩猟シーンが頻繁に登場し、ガチで捕らえた動物を解体するシーンなどが登場する
なので、血がダメという人は直視できないシーンが多く、劇中で登場する写真家・石川竜一の『いのちのうちがわ』からの写真も引用されていく
内容としては、命に向き合うことを描きながら、彼がそこに安息を求めている理由などが描かれていく
かなり哲学的な内容になっていて、映像と上映時間の長さも踏まえて、相当な覚悟が要る反面、「すごいものを見たな」という感覚は拭えない
人類が肉を食べていることに向き合い、命の選別とその業を真正面から描き、そこに在る葛藤なども浮き彫りになっていく
劇中で印象的だったのは、小学生たちが解体シーンを見学するところで、先生たちは「小学生たちの意思を尊重して参加させている」ところだろう
そこで「かわいそう」と呟く子どもたちも真剣にその様子を眺め、そして「かわいそうだけど、肉は美味しい」という素直な言葉を残していく
動物から命をいただくことを真剣に捉え、無駄に捨てることがないように全てを享受する姿は、フードロスがどうのとモニターの向こうで鍔迫り合いをしていることを思えば、それらがいかに偽善的で軽薄なもので在るかがわかってしまうように思えた
個人的には、「概念としての地球にとっての癌細胞」が「現実的に思える」と紡がれる言葉が印象的で、これは劇中で登場する登山家・服部文祥の言葉でもある
他にも元猟師のフジナミという老人から学ぶ、「熊などが人間の世界に降りてくる理由」なども新鮮な情報で、いかに本質に向き合わない議論がメディアを覆い尽くしているのかがわかる
動物愛護団体が見たら発狂する内容だし、ファッション・ヴィーガンの人たちも卒倒すると思うが、このあたりのガチな議論をするベースとしては、新鮮かつ意味のある燃料投下のようにも思える
「森の中で死んで、そのまま動物や虫に食べられて朽ちていきたい」という東出の言葉は印象的で、命の循環の中にある一瞬を与えられていることの意味というものは大きいように感じた
いずれにせよ、普段はドキュメンタリーを見ないのだが、俳優がガチの狩猟で生きているということに興味が湧いて鑑賞した
映画の中で見る東出昌大、メディアで報道される東出昌大、そのどちらからもかけ離れた存在であるものの、その露出した部分の根幹にあるものは違わないように思える
音楽をMOROHAが担当し、その叫びも重なっていくのだが、現代社会に生き抜く上では避けて通れない問題を描いているのだな、と感じた
生々しい狩猟のシーン。。。俳優 東出が世間で叩かれ、狩猟で救われる。
猟師の師匠がまた アクの強い男。自信にあふれ哲学的。
私生活でマスコミに叩かれ、離婚し事務所も辞めた。
不眠になり薬や酒が無いと寝れない生活。
そんな中でも役者の仕事には打ち込む。
鹿を撃ち殺し 猪を撃ち殺し、内臓を出して革を剥ぎ、
血みどろになって解体し、そして食べる。
リアルな感触を通じて、変化していく一介の男、東出。
2024 自分の中の暫定1位
革命
例の不倫や、撮影現場に女性を連れ込むなどなど、世間を騒がせてきた東出昌大さん。ここ数年はシネコン・ミニシアター問わず様々な作品に出演されており、騒動が起こる前よりも応援したくなったなと思っていたところでのドキュメンタリー、しかも狩猟を交えてという中々異色なドキュメンタリーに惹かれて鑑賞。
狩猟がメインに据えられており、東出くんもしっかり狙撃して鹿を捕らえていました。血抜きのシーンや肉を削ぐシーンも多くあったので、耐性が無い人にはキツいかもしれませんが、こうやって食事が食卓に出てくるんだよなぁと大人になった今しみじみ思います。
東出くんの人の良さがこれでもかと発揮されており、狩猟会の人たちともすぐに打ち解けて、東出会(と呼ばれてる集まり)や作品での繋がりのある俳優陣、そして敵であるはずのマスコミの人ですら仲良くしてしまうという前代未聞な映像が流れていて笑ってしまいました。
その後もちゃっかり仕事に繋げてて、こういう縁を作るのが本当に上手なんだろうなと思いました。
関わる多くの人の言葉がそれぞれ命を持っていて、服部さんの「サザエさん一家のように国民的な家庭をぶち壊したんだからそりゃ責められるよ」という例えは的を得ていて言葉の組み立てが上手いなぁと思いました。
狩猟含め自給自足の生活がメインなので、料理がたくさん出てくるもんですから、腹の虫が鳴きまくっていました。
しっかりと野生の生き物を自分の手で調理して、それに齧り付く東出くんたち。あれはたまりません。
東出くん自身もSNSでの誹謗中傷についてしっかり語ってくれていて、人の粗探しをするくらいなら自分の楽しいことを探せばいいのにっていうセリフはそうだよなぁと共感しまくりでした。
MOROHAの音楽も相まって、フレーズひとつひとつに東出くんの波瀾万丈な人生が詰め込まれているかのようでした。
自身の子供への遺言、そのためのドキュメンタリー。これからも俳優と狩猟、二足の草鞋で生きていく彼を応援し続けたいと思います。カッコよかった。
鑑賞日 2/18
鑑賞時間 19:25〜21:50
座席 E-1
全5件を表示




