「【”世界は残酷で溢れている。それでも僕は、自分の生き様を会えない子供達に遺すために命を自らの意思を持って戴き、生きる。”俳優、東出昌大の役者人生の瀬戸際からの生き方を描いたドキュメンタリー作品。】」WILL NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”世界は残酷で溢れている。それでも僕は、自分の生き様を会えない子供達に遺すために命を自らの意思を持って戴き、生きる。”俳優、東出昌大の役者人生の瀬戸際からの生き方を描いたドキュメンタリー作品。】
ー 俳優、東出昌大氏が、今作の中でも自ら口にしているが、自らの奢りによりある出来事を惹き起こし、家庭は崩壊し、仕事は無くなりメディアにも出られなくなった事は、映画を観ている方であれば、ご存じのことであろう。
今作は、そんなどん底の状態の彼が、山の中に籠り、狩猟免許を取得し”単独忍び猟”を初め、野生の鹿、熊などの肉を食いながら、数名の人間と関りを持ちながら生き、再生していく様を描いたドキュメンタリー作品である。-
◆感想<Caution! 内容に触れています。>
・今作の冒頭から、強烈な存在感を発揮している東出氏が慕う”単独忍び猟なら、一番上手いのは、服部さん。”と語る、登山家服部文祥氏についてまずは触れたい。
私が、服部氏を知ったのは大学のサークル内に山のように積まれていた雑誌「岳人」「山と渓谷」の記事である。
そこには、大学生だった服部氏(当時は村田氏。その後奥さんと結婚し”格好いいから”奥さんの苗字にした。)自身が書いた破天荒なK2登山の記事が載っていた。それまで、登頂記はマジメに書かれたモノばかりだったが、彼が書いたK2登山記事は強烈だった。
その後、服部氏は”サバイバル登山”と言うジャンルを確立し、登山界に衝撃を与える。所謂、テントやシュラフ、ヘッドランプと言った登山には必須のモノを”ズル”と言いきり、米と味噌だけ持参し、後は渓流で岩魚を釣り、食える草(山には多数ある)、蛙、蛇を現地調達し、2週間ほど山を渡り歩くスタイルである。
この辺りは、みすず書房から出版されている超絶面白い「サバイバル登山家」に記載されている。その延長上に狩猟サバイバルがあるのである。この辺りもみすず書房から出版されている「狩猟サバイバル」に記載されている。
更に、冬の黒部(フツーの人は行かない。理由は明白。死ぬからである。)に、冬黒部の先駆者で、多分服部氏が唯一頭が上がらないと思われる和田城志氏と、故、ベニシアさんの旦那さんで山岳写真家の梶山正氏と登った登頂記は戦慄モノであった。
とまあ、兎に角トンデモナイ人なのであるが、今作でも冒頭からのマクロ的な死生観を語る言葉が凄い。東出氏は黙って聞いているのみである。
そして、服部氏は鬱状態にあった東出氏に、”慎重に言葉を選んで”メールを売ったりもしたらしい。実は、繊細な人である事が何となく分かる。
東出氏の再生のきっかけになった人物の一人だと思う。
・序盤は、東出氏がスキャンダルから逃れるためと、仕事がなくなったためなのか、彼が狩猟免許を取得し、鹿を撃つきっかけを話すシーンが多く映される。
その中で彼が口にするのは、”圧倒的な生の実感。”と言う言葉である。
マスコミに叩かれ、根拠の無い事を週刊誌に書かれ、事務所との契約も解除になりながら、東出氏が言った言葉は重い。
■再後半、東出氏がカメラに向かって言う言葉も実に重いが、観る側に突き刺さるのである。
”このドキュメンタリー映画の制作をする意図っていいましたっけ?”と言いながら、彼はハンドルを握りながら、”子供達への遺言の積りで撮って貰った。”と言うのである。
<東出氏が行った事の代償が余りにも大きかった事は、冒頭に記した通りである。そして、彼が非常にクレバーな頭を持ちながら、時に衝動的に道を外す性格であることも、観ていると分かって来る。
故に序盤は、観ていて”この人、プライバシーもなく、世間に叩かれ続けて大丈夫なのかな。”と思っていたが、徐々に猟で獲った鹿肉や熊肉を地元の猟友会のオジサン達と食べている姿と、上述した彼の”子供達への遺言の積りで撮った。”と言う言葉を聞いて、東出氏の生に対する考え方が変わったのかな、と思ったのである。
今作は、俳優・東出昌大氏の狩猟生活に密着しながらも、実は大きな過ちを犯した男の喪失から再生して行く姿を撮った優れたドキュメンタリー映画ではないかな、と思った作品である。
俳優・東出昌大氏の近年の作品を選んだ映画での演技は素晴らしいと私は思う。今後も、良い映画で更に活躍して欲しいと、切に願っている。>