劇場公開日 2025年11月14日

「古いドラマに木村大作大先生」港のひかり ひぐまさんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 古いドラマに木村大作大先生

2025年11月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

 藤井道人監督が脚本も手掛けたオリジナル作品。近年精力的に毎年新作を発表している。「オー!ファーザー」(2014年)以降、全作品を見たわけではないのだが、概ね原作アリ作品の方がキレの良い演出をしているように感じる。昨年の「正体」(原作アリ)の緩むことのない緊張感が忘れられなかったゆえ、本作はいまイチと言い切ってしまえると思う。もっと撮れる監督のはずだと思っていたが、今回は期待が過ぎたかな。
 大ベテランの木村大作大先生がフィルムで撮っているという要素も古さを感じさせるものかもしれない。「古い=悪い」ではなく、いっとう最初の画、場面変わりに挟まれる風景。それだけで一本作れるくらいの美しい映像。ざらっとした質感とシャープなフォーカス。特徴のある赤の発色。どれもこれも「あ、木村大作だ」「フィルムだ」と一発でわかる主張を感じる。星0.5のプラスはこれ。

 映画全体の印象を言えば「古い東映セントラルのテイスト」である。映画として見せるよりもコタツに入ってTVで楽しむような感じ。ぼんやりと「冬の華」(1978年/降旗康男監督・高倉健主演)に近い印象を抱いた。
 物語の転換点での描写が少なくメリハリが薄い。それを役者陣のカッコよさで「そんなもんどうだっていいジャン!」と正面突破を図ろうとする。昭和はそれを「潔い」と感じてしまっていたのだが(苦笑)、今は令和だ。その点でいえば荒川(笹野高史)と石崎(椎名桔平)は作品全体の品質維持に重要な役割だったと肯定するが。
 具体的に言えば前組長の河村(宇崎竜童)がなぜ三浦(舘ひろし)を破門にしたのか。なぜ三浦が幸太(尾上眞秀)にあそこまで惹かれたのか。最後になぜ〇〇が××にとどめを刺したのか…。説明セリフがないのは好感が持てるがいまひとつ理解に苦しむ(特に最初)。ホン書きの藤井道人が監督藤井道人に勝ってしまったと言えるだろう。

 これで最後まで△△があっさりと生き残る設定であれば、また新しいヤクザ映画の地平を示したかもしれないのだが、か~んたんに〇してしまう。その方が物語の作り方としては簡単なんだよ。アタマ使わないで済むし。だが本作は東映配給(+スターサンズ)。舘プロの制作。なら、これでいいのかもしれない。あくまでスタッフ間で見れば、それでいいのかもしれない。だが「青の帰り道」(2018年)を見てちょっとだけ震えた藤井道人の可能性を膨らませる収め方にはなっていない。酷い言い方かもしれないが、よくこれで「新聞記者」(2019年)や、この作品の前後となる「正体」を撮れたものだなと思う。ムラの大きい作家なのかもしれない。残念。

 付け足しになるが、主演・二枚目はもとより役者陣はみんな平均以上に良かったと思う。特に赤堀雅秋はああいう役どころが最も似合う(笑)。黒島結菜がちょっとしか出てこないのが残念だった。一ノ瀬くんとピエールは「両方」できる器用な俳優だね。

 聞くところによるとこの作品をクランクアップさせた直後に地震があったらしい。最後には本編に字幕が出る。元通りの生活に、美しい能登に早く戻れるように願ってやまない。

ひぐまさん
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