「なんでも楽しまな!」あまろっく U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
なんでも楽しまな!
人情味に溢れるいい作品だった。
…人情味と書いてふと思う。いつ以来に使う単語なんだろうか?山田洋次監督の作品に使ったろうか?覚えていない。
江口さんがべらぼうに凄い。
家族の中にいる時、時折中2に見える。いやどう見てもおばさんだ。中2なわけないんだけど、彼女の内面がそうさせてるとしか思えず、化物かと思う。
彼女の話し方に全く気負いを感じない。関西弁のフランクさもあるのだろうけど…それにしても異次元の性能だ。
人生は辛い事の連続で…今作も様々な不幸が訪れる。なのだが折れない。潰されない。
登場人物達は皆、健気で強い。
能天気な父親が直向きにするポジティブシンキングには、物事は捉え方次第だと学ばされる。
20歳のシングルマザーもへこたれない。彼女が置かれる環境は結構現実離れしていて、結婚相手に自分より遥かに年上の子供がいる。その女性を相手どって初対面から「優子ちゃん」と呼び放つ。
そして、その関係性を何が起こっても曲げない。私はあなたのお母さんになるってスタンスを崩さない。
この居心地の悪いであろう同居生活も、いつしかなだらかになっていく。
不思議なんだけど、関西人ならばそうなっていく現状に頷けてしまう。関西特有のユーモアがそうさせる。日々の中に根付く「笑い」がそうさせていく。
降りかかる不幸に塞ぎ込むではなく、むしろ、負けない。その方程式が体内に染み付いてるような感触があった。
自分もそんな関西人のDNAを持ってて良かったと思う。
台風の中、つい笑ってしまう心理がよく分かる。何が起ころうとどうにかするし、何とかなる。もう乗り越えた先が分かってるから、台風などはただのイベントなのだ。
どうにも出来ない災害は起こる。117…途方にくれる。さすがに笑い飛ばせはしない。その区別くらいはあるが、もう28年も前の事なんだと気付かされる。
まるで、昨年の事のようにも思うのだ。
人生はやはり選択の連続で…エンディングである1年後が微笑ましくていじらしくて涙が止まらなかった。
この手の物語はやはりハッピーエンドがいい。
登場人物達はエンディングを迎えるわけではないのだけれど、笑いを失っていない未来に救われる。
娘は父親の後を継ぎ、およそ40年は離れているであろう弟をあやす。言動なんかは生写しのようだ。
後妻は副社長となり、工場を盛り立てる。
破談になりかけた縁談は、彼氏が工場に就職した事で継続されそうである。
なんとも優しいエンディングではないか。
のっぴきならない出来事が次々起こっているはずなのに、閉塞感を感じなかったのは関西特有の土性骨の強さなんだろうと思う。
あまろっくを眺めながら、義母を胸に抱き「これからは私が家族のあまろっくになる」と言い放つ優子の目がカッコ良かった。
あの眼差しに捨てたものと拾い上げたものの全てが詰まってたように思う。
それにつけても皆様、関西弁がお上手で…それだけでもなくツッコミの間とかも達者だった。
おかしなシュチュエーションなのだ。笑うようなシーンでも空気感でもないはずなのに、ツッコミが入る。いれずにおれない何かがある。
そんな関西人の生態も微笑ましく思えてしまう作品だった。
防波堤であるあまろっく。
冒頭の説明にもあったように、異なる水位の場所を繋げる役目もあるという。
父親が言う「俺はあまろっく」人と人との感情の差もなだらかにするようで、そんな意味も含まれていたのかなとふと思う。