劇場公開日 2024年12月20日

「最高の教師は子どもの心に火をつける」型破りな教室 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0最高の教師は子どもの心に火をつける

2024年12月22日
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鑑賞方法:映画館

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幸せ

予告を目にした時から鑑賞予定リストに入れていた本作。教育現場での感動のドラマを期待して、公開2日目に鑑賞して来ました。

ストーリーは、アメリカとの国境付近にあり、貧困と犯罪に苦しむメキシコのマタモロスで、教育底辺校と言われる小学校に赴任してきた教師・フアレスが、やる気のない同僚と設備の整わない学校という逆境にもめげず、型破りな授業で子どもたちの探究心をかき立て、全国トップクラスの成績に押し上げていくというもの。

貧困家庭、ヤングケアラー、治安の乱れなど、混沌とした社会情勢の中で満足のいく教育どころか、まともな生活さえままならない子どもたち。本来なら、そんな子どもたちを家庭や学校や地域や国が全力で支えるべきなのですが、家庭にそんな力はなく、教師たちも完全に意欲を失い、地方行政にも何ひとつ期待できません。かろうじて国は危機意識をもち、学力検査による競争原理を持ち込み、教師のモチベーションを報酬で上げようとします。しかし、教育を数値化された結果でしか見ようとしないのは、いかにも現場を知らない役人の考えそうな短絡的発想で完全な悪手です。これがかえって現場の教師を腐敗させていきます。

そんな中、担任のフアレスが行う授業が、子どもたちに学ぶ楽しさに気づかせます。つまらない暗記や点数から解放され、知的好奇心を満たそうとする子どもたちのいきいきと輝く目がとても印象的です。一見遠回りのようで、実はここにこそ教育の本質があるように思います。本作は2011年にメキシコであった実話がベースのようですが、それから10年余、彼の教育理念がどこまで広がったのか気になります。

では、日本はどうかと考えると、決して他人事ではないように思います。疲弊して心身の健康を損なう教師、欠員補充がなく担任不在の学級、保護者の訴えに怯える学校、事なかれ主義が蔓延る職員室…こんな沈みかけの泥舟に乗りたい若者がいないのは当然で、日本の教育も今や崖っぷちにあるように思います。しかし、日本にだって、この泥舟の穴を塞ぎながら必死で漕ぎ続けている、フアレスのような教師がいるはずです。ファレスの思いが校長を揺り動かしたように、教師の熱い思いが子どもだけでなく、同僚や保護者にまで広がり、この国の教育が少しでも改善されるといいと思います。

劇中、パロマの父がフアレスに対して、「無責任な夢を見させないでほしい」と口にします。夢を諦めて悲しむ我が子を見たくないのでしょう。その思いも十分に理解します。しかし、夢を与えない教育こそ、よほど無責任ではないでしょうか。教育は、夢の実現を保証するものではなく、夢を与え、それに向かってがんばる子どもたちに寄り添うものだと思います。

教育に関する有名な言葉にこのようなものがあります。
「平凡な教師は言って聞かせる。 よい教師は説明する。優秀な教師はやってみせる。 しかし最高の教師は子どもの心に火をつける。」
フアレスは間違いなく最高の教師です。

キャストは、エウヘニオ・デルベス、ダニエル・ハダッド、ジャニファー・トレホ、ミア・フェルナンダ・ソリス、ダニーロ・グアルディオラら。

おじゃる