「明確にターゲット層に対して説明が足りていないがまぁそこは…。」18歳のおとなたち yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
明確にターゲット層に対して説明が足りていないがまぁそこは…。
今年83本目(合計1,175本目/今月(2024年3月度)1本目)。
(ひとつ前の作品「ザ・フェイス」)
この映画はここの紹介、あるいは公式サイトにもあるように、一定数当事者が見ることが想定されています。その観点でいうと、映画内で描かれるように「契約の大切さ」やその「取消しと無効、解除の違い」といったことについては前者は一応触れられているものの後者に関しては何ら説明がないのが大混乱し(かつ、解釈上も怪しい。後述)、どういうターゲット層を想定しているのか不明です。
もっとも、法律系試験を受けることは妨げられませんし、例えば行政書士試験の合格最年少は13歳ですが、成人するまでは(現行民法では18歳)なることができませんが(行政書士法。ほか、司法書士法、社労士法ほかも同じ)、この映画のターゲット層として「ある程度」法律の知識があることを前提にしてというのは難しく、かなり難しい解釈を求められるのが厳しく(いわゆる、中学高校での、都道府県の弁護士会や行政書士会ほかの「法学習の時間」で扱える範囲を優に超えてしまう)、「ターゲット層に対して情報量が多すぎ」という点が明確に言えます(どう考えても当事者に理解ができない。全員が全員、宅建だの行政書士試験だのをまず受験するという前提は明らかにおかしい)。
このために、映画の趣旨自体は理解はしても「当事者に対しては明確に足りていない」点は言うことができ、「一応理解はできるが、当事者視点でどうか」という問題が明確に残ってしまうので(それはドラえもんであろうが何であろうが、想定視聴者というものが存在します)、かなり厳しいといったところです。
なお、本映画は「実話をもとにしたもの」であるようですが、解釈上は令和6年4月1日時点で施行(予定)である解釈によるものとします(以下すべて同じ)。
採点に関しては以下を考慮しました。なお、かなり特殊な解釈を求められますので注意が必要です(そこらの映画よりかなり難易度が高い)。
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(減点0.5/ターゲットに対する明確なメッセージ不足)
・ 前述したように「成人年齢の引き下げによる、当事者への契約の大切さなどを説くもの」という解釈で見る(いわば、学習映画的なみかた)のが妥当だろうと思いますが、そうするとかなりの部分で理解が詰まります(正直、ストーリーをもう少し簡略化して、弁護士なり行政書士なり、どこかの団体の後援を経てつくるタイプの映画ではないかと思える)。
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(減点なし/参考/無効な行為と取り消しうる行為ほかの知識)
・ 民法やその特別法(借地借家法ほか)、あるいは、この映画で指しているのは行政法規に属するのだろうと思いますが…、「被害者救済法」(俗称。全文はネタバレ回避)ほか、民法90条により無効とされる行為は、当事者の合意によっても新たな行為が始まるわけではありません(絶対的無効行為)。
すると、お金の動きがあることから民法121条の2による原状回復義務から不当利得の問題になりますので、債務者を引っ張り出して吐き出させれば済む話です(そこで特定の行為をとれば(条件を満たすなら)詐害行為取消権なども飛んできます)。ただ、この点はマニアックな論点だし、民法大改正前と後とで結論がやや異なるので(不当利得の扱いや、詐害行為取消権に関してはそもそも条文自体が違う)、解釈をすっ飛ばした(あるいは、そこまで踏み込むとマニアックになる)ものと思われます。
(※) この点、無効な行為と取り消しうる行為(この映画の例では、96条か、95条を根拠にすることもできる)が両方あるとき、どちらを主張するかを選択できるか?という問題もあります(実際、旧民法では錯誤は「無効」だったので実益のある議論だった)。ただ、民法90条はもちろん「被害者救済法」によるそれは強行規定による無効なので、無効ではなく取消しを当事者が選択する余地はない、というもの(通常の理解)であろうと思います(ただ、この辺、かなりマニアックな話で、一言入れておいて欲しい話ではあります/ただし、その場合でも不当利得の話が復活する(121条の2)のは変わらない。なお、解釈を民法大改正以前のものと解釈すると、解釈はある程度変わる)。
ただ、それと映画上の解釈とは別の話なので、資格持ちは何を言ってるのか理解ができずに詰むことになります。まぁ、詐害行為取消権なんてほぼ出ないので(フランス民法からきたものだが、日本ではほぼ登場しない)、まぁもう全部飛ばしたんだろうというところです。
(減点なし/参考/事務管理と無権代理) ※ 減点幅に織り込み済み(固定0.3扱い)
・ 事務管理の管理者にあらゆる代理権が与えられているのではないので、管理者が本人の名で何らかの行為を第三者を巻き込んで行うと、それは(表見代理を満たさない限り)無権代理にしかなりません(判例)。
(減点なし/参考/行政の行う行為と公法私法のクロス論点)
・ 行政は常に公法(憲法、行政法を指す)だけを行うのではなく、何らか個人と契約を結ぶのであれば、それは民法が適用されます(公法私法二分(二元)論、というもの)。
(減点なし/参考/成人式の扱いについて)
・ 成人式は法律上必ず開かなければならないものではないので(これを定めた法律は存在しない)、実際に何らかの理由で参加できなかったり(リアル日本ではコロナ事情が代表例)、がっかり状態になったとしても、それを理由に行訴法が走ることはありません(個人間でトラブルになったのであれば、それは民訴法の話)。