「予想とは違っていたものの…」梟 フクロウ ぺがもんさんの映画レビュー(感想・評価)
予想とは違っていたものの…
事前情報は、舞台が李氏朝鮮時代の話らしいということと、ポスターのインパクトあるビジュアルのみ。だから、てっきり「春琴抄」的な宮廷の悲恋物語か、「仕掛人藤枝梅安」の韓国版的なものと思っていたら全く違っていた。史実に残された不可思議な死に対する歴史ミステリ+特殊設定サスペンスといった風情なのだ。
盲目の天才鍼師ギョンスは、病気の弟を救うため、誰にも言えない秘密を抱えながら宮廷で働いている。しかし、ある夜、王の子の死を“目撃”し、恐ろしくもおぞましい真実に直面する。権力争いに巻き込まれ、追われる身となったギョンスは、それでも謎めいた死の真相を暴くために奔走する。
この秘密というのが、全盲ではなく“明るい所では見えないが、暗い所ではうっすらと見える”という特殊性。思いっきりネタ晴らししてるじゃないかと思われそうだが、この仕掛けがメイントリックというわけではない。むしろ周囲から盲目と思いこまれているが故に嫌疑を逃れたり、自分だけ夜目が利くことから危機を脱したりと、サスペンスを盛り上げるのに一役買っている。だからネタを知っていても面白さが損なわれることはない。「梟」というタイトルはそういう意味だったのか、と唸らされることだろう。
前半はギョンスが如何にして宮廷に呼ばれ、鍼師として重用されていくかという、いわば昼の世界。それが王の子の死を目撃してからは、ほとんどが夜の描写となり、観る者もギョンス同様サスペンスフルな闇の世界を体験することになる(暗闇だが、見せるべき所はちゃんと写すカメラワーク)。この明暗の使い分けがとても上手い。途中、真犯人の残した証拠品を拾おうと焦る場面も、ヒッチコックの「見知らぬ乗客」を彷彿させ、なかなかスリリングだ。
もちろんストーリーも、犯人の濡れ衣を着せられたり、善人と思われていた者が悪人だったり、誰が敵か味方か分からない裏切りと謀略の連続で二転三転。そして、クライマックスにおけるギョンスがとった行動と因果応報的ラスト。史実だけに覆らない部分は好き嫌いが別れそうだが、それでも上質のエンターテインメントであることは間違いない。