「一寸の虫にも五分の魂」梟 フクロウ かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
一寸の虫にも五分の魂
「仁祖実録」の記述を元にしたサスペンス。
映画の始めに出てくる世子の死に関わる記載はものすごく陰謀臭い話で、これでサスペンス映画撮れそう、という発想が分かる。
韓国の時代劇を見たのは初めて。
衣装や調度、豪華でお金をかけたんだろうと思う。
主人公を盲人にしたアイデアが良く、それを上手く使っていた。
冒頭の、子供を背負って走る男性の描写がどこにつながるのかと思った。主人公は盲目ではなかったか? あんなに走っているのは別の男なのか、または盲人ではなかったのか。
冒頭からサスペンスの様相で引き込まれる。
主人公は病気の弟を抱えた天才鍼医で、前半は彼の出世物語風だが、宮廷に入ってからは陰謀渦巻くドロドロの権力抗争、ギョンスはなまじ腕が良かったために奥の一族に気に入られ、世子の人間性に触れて、傍観者でいればいられたのに敢えて渦中の当事者になってしまう。その恩に報いるために。
十分自分の「分をわきまえている」ギョンスは、絶えず葛藤するが、結局、自身の良心に従って行動する。自分と弟の身が一番可愛いのは当たり前だが見捨てられない。
誰が味方で誰が敵か、ギョンスがどう切り抜けるのか、伏線もありハラハラどきどきで、知らず知らず力を入れてしまい肩が凝りました。
盲人を「目撃者」としてどう信用させるかという面白さもある。
不審死するのがわかっているので、世子の人徳者ぶりが悲しくなる。
王が自分の地位を脅かすからといって実の息子を謀殺しようとする感覚に大きく違和感。主に中国に対する方針で意見が対立していたからというより、王の地位への執着がそうさせたよう。りっぱな後継者候補はライバルでしかないようだ。
私が日本人、というか家の存続第一という徳川家の統治に慣らされているからでしょうか。
命をかけた告発が握りつぶされ手を貸した世子の妃は汚名を着せられたまま処刑、残された皇子も島流し。そしてギョンス自身も、という騒動の結末がもやもやしたが、それで終わらせないからこそ、史実に出ないところを創作して見せるフィクションの意義あり。
仕事人だよね。韓国の梅安。
悲劇を未然に防げず、起きた後の復讐のみで結局もやもやが残るところも「仕事人」です。
偉い人たちには一庶民など虫けらのような存在だろうが、虫けらにもヒトとしての魂がある。侮るなかれ。
タイトルの「梟」、なるほどと思いました。