「現実と映画の中の現実、そして劇中映画のシンクロが面白い」瞳をとじて 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
現実と映画の中の現実、そして劇中映画のシンクロが面白い
”スペインの巨匠”ビクトル・エリセ監督の31年ぶりの長編映画ということで、評論家の評判が頗る高かった本作を、ニワカの私も観に行ってみました。スペインを舞台にした映画と言えば、先月「サン・セバスチャンへ、ようこそ」を観ましたが、本作とは実に対照的でした。「サン・セバスチャンへ、ようこそ」は陽気なコメディ作品であり、当方の勝手なスペインのイメージに合致する作品でしたが、本作はかなり暗く、静かで、低いトーンで物語が進んで行く作品で、同じスペインの映画でも、こうも違いものかと意外に思ったところです(まあいろんな映画があるのは当たり前と言えば当たり前の話ですが)。
お話としては、映画監督である主役のミゲルが、20年前に映画の撮影中に失踪した当該映画の主人公であるフリオを探すというミステリー仕立ての作品でした。しかし人探しそのものに重心を置いた作品ではなく、ビクトル・エリセ監督の長編デビュー作である「ミツバチのささやき」(1973年)で子役として主演を務めたアナ・トレントが、本作でもフリオの娘のアナとして登場したり、劇中映画と本作の登場人物の置かれた父娘の離別と再会という状況や心理との関わり、そして何よりも20年間映画を撮っていないミゲルと、31年ぶりに長編映画を創ったビクトル・エリセ監督が重なるなど、非常に重層的に創りこまれた作品でした。しかしながら基礎知識のないニワカな私としては、物語中盤辺りまで正直消化不良に陥ってしまいました。
しかも3時間近い長編とあって、何度か寝落ちの危機が訪れましたが、記憶喪失になってしまいガルデルと名付けられて老人ホームで働くフリオの所在が明らかになり、ミゲルがそこを訪れる辺りから、俄然面白くなって来ました。そしてフリオと娘のアナの再会、さらには20年前にフリオの失踪で撮影中断を余儀なくされた映画を、最近閉館された映画館に集めて上映するというドラマチックな展開に至り、ビクトル・エリセ監督の神髄を垣間見たような気がしました。
特に感心したのは、先にも触れた劇中映画と映画の中の現実がシンクロしたところ。父娘の再会はハッピーエンドとなるのか?劇中映画では、再会を果たした直後に父親が亡くなりましたが、果たしてフリオは記憶を取り戻すのか?そんな観客の期待と不安が集中する中で迎えるエンディングは、まさに映画らしい映画だったと思います。
そんな訳で、面白い作品ではあったものの、私にとってはちょっと時間が長かったのが残念と言うところでした。そんな本作の評価は★3.5とします。