「映画館のなくなる現代から映画をこじ開ける映画だった」瞳をとじて ONIさんの映画レビュー(感想・評価)
映画館のなくなる現代から映画をこじ開ける映画だった
ベンダースがあって、カウリスマキがあって、そしてタケシの新作もあったが、エリセの新作が来てしまった2024年。観終わったときに170分近くあったことを知る。そんなあったのか。
しかし手の込んだ現代劇だった。冒頭から、らしからぬ、と思ったらそうか劇中劇ね、というところから始まって、そのシーン以降製作中止になって20〜30年経った映画監督が主演俳優の失踪事件のテレビ番組に出るところから物語がはじまる。
そうでなくても映画の俳優スタッフなどは一期一会みたいなのが多い中、子供がおばさんになる時間を経て、点と点を探って「金のため」消えた男ネタをテレビで流してもらう。収録後、過去の遺物のフィルムの冒頭だけを渡し、実家近所の食堂でそれを観てるところがいい。その前の「リオブラボー」の歌とか。
そこから「ドライヤー以降ない」と編集マンが言ってる奇跡に向かって物語は進む。病院にいってからはほとんど宮崎駿の「シュナの旅」を思い出していた。いつ彼が気づくのか、気づかないのか、その瞬間を固唾を飲むように見守らされる。その海、波、白いペンキ、揺れるシーツ、記憶のない旧友、の時間がすごくいい。ふたりしかしらない秘密のアイテム、そして未完成のあのフィルムを見せたら!と思いつく。フィルムを運んでくる編集マンがなんだかウォルターブレナンのように見えてくる不思議(西部劇の相棒チックで楽しい)
で、かなり印象的な写真の中国の女の子が一向に出てこないが、きっと探偵物のストーリーとすると回収があの屋敷であったはずだ、と思うと、そうか、あのピアノを忘れてたな。。
前半、かなり禁欲的に進む中、この病院シークエンスは特にセリフのない表情の切り返しが多く、それが感動的。
思えば、フィルムの時代からデジタルの時代へ、映画館すら必要とされていない現代に倉庫の扉を開けて、眠っていた衣装、小道具、手帳を取り出し、旅にでて、そして同じく眠っていた映画館と映写機を動かし、誰も観るあてもなかった未完の作品のフィルムが回る。これほど込み上げてくるものがあるだろうか。「ニューシネマパラダイス」はあの時代の回想劇であったが、こちらは現代から扉(記憶)をこじ開けて、スクリーンをみつめる誰かを見つめる映画だった。もう一回観たい、と思った。