「ドラマ版を観ていたら意味なさそうだが、伊藤野枝を知るには良い教材なのかもしれません」風よ あらしよ 劇場版 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
ドラマ版を観ていたら意味なさそうだが、伊藤野枝を知るには良い教材なのかもしれません
2024.2.12 MOVIX京都
2024年の日本映画(127分、G)
NHK-BSにて放送されたドラマ版を編集した作品
実在の人物、伊藤野枝の半生を描く伝記映画
原作は村山由佳の『風よ あらしよ(2020年、集英社)』
演出は柳川強
脚本は矢嶋弘一
物語の舞台は、明治44年の福岡県今宿村
15歳になったばかりの野枝(吉高由里子、幼少期:湯本柚子)は、親の言いなりで結納を済ませる事になったが、本心ではその不自由に憤りを感じていた
野枝は東京・上野にある高等女学校に進学し、そこで英語教師の辻潤(稲垣吾郎)と出会う
彼の授業の中で、青鞜社を立ち上げた平塚らいてう(松下奈緒)の雑誌を知った野枝は、その言葉を胸に上京を決意することになった
許嫁の末松福太郎(池田倫太郎)を突き飛ばして家を出た野枝は、高校時代の辻の言葉を信じて、彼の元に転がり込んだ
辻は、「ここで好きなだけ暮らせば良い」と言い、野枝はそこを根城にして、青鞜社を訪ねることになった
平塚は彼女の手紙に甚く感動し、彼女を青鞜社で働かせる事に決める
だが、青鞜社の状況は良くなく、政府から目を付けられ、その内容から脅迫などが絶えない状況だった
そんな折、野枝は平塚の計らいにて、青鞜社の演説会にて登壇し挨拶をする事になった
野枝は思いの丈を語り、辻はそれを機に彼女との距離を取り始め、アナキストの大杉榮(永山瑛太)は彼女に興味を持ち始めた
社会活動化の渡辺政太郎(石橋蓮司)の引き合わせによって大杉と会うことになった野枝は、徐々に彼の人柄と思想に傾倒していく
そんな様子を良く思わない辻だったが、彼は教師を辞めて無職状態、大杉との仲を感じ取り、野枝も覚悟を決めることになったのである
映画は、伊藤野枝の女学校時代から甘粕事件にて命を落とすところまで描いていくのだが、肝心の甘粕事件に関しては「あったのかなかったのかわからない」くらいにぼやかされている
彼女が暴行を受けるシーンもなく、ただ大杉の亡骸にしがみついて咽び泣いているだけで、その後は冒頭で使われた「井戸の中から空を眺めるショット」にて、井戸の中に遺棄されたことを仄めかしているだけだった
伊藤野枝について、この映画で学べることは少なく、彼女がどのような書物を記し、どのような思想で弾圧されてきたのかは結構端折られている
甘粕事件の全容もほぼふれられず、甘粕正彦(音尾琢真)が登場するものの、そこでは大杉がリンチを受けていることがわかる程度だったりする
さすがにNHKのドラマで女性の拷問シーンをやるわけにはいかないので当然だが、劇場版と言うからには、追加撮影で過激なシーンを加えるのかと思っていた
だが、おそらくは3話のドラマを繋ぎ合わせた総集編となっているので、ドラマを観ていた人が敢えて観る必要はないように思える
いずれにせよ、映画だけでは伊藤野枝の凄さがほぼ伝わらず、何かを成し得たようにも思えない
貞操観念が弱めで、男運が悪いようにしか思えず、演説のシーン以外で見どころがない人生に思える
新しい女性を掲げて活動していたが、彼女の活動によって何が変わったのかもわからず、単に引き継いだ青鞜社を潰しただけのように描かれているのは微妙に思えた
ちなみに映画でも引用される「吹けよ あれよ 風よ あらしよ」と言う言葉は「青鞜」の中で記された言葉で、今では伊藤野枝選集のタイトルにもなっている
その言葉の続きを知るならば、それらの選集に目を通し、どのような思想でどのような言葉を紡いだのかを確認した方が良いだろう
本作およびドラマ版は「伊藤野枝と言う人物がいた」ということを知るきっかけでしかないので、そう言った意味においては価値があるのかもしれません
レビュー、とても参考になりました。ドラマの3話は前に見ました。伊藤野枝の本も2冊読みました。今は亡き瀬戸内寂聴がバカリズムがMCの悪女伝説という番組で伊藤野枝の解説をやったのがとても印象に残っています。 伊藤野枝の野性味溢れる情念を体現出来る日本の女優さんはなかなかいませんね。それだけスゴイ人。過去にヌレバで話題になった人気女優ということで吉高ちゃんに白羽の矢が立ったんでしょうけど、やはり荷が重かったというか、ミスキャスかも。