「男女同権思想の映画として見る分には及第点だが、わかりにくい部分も。」風よ あらしよ 劇場版 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
男女同権思想の映画として見る分には及第点だが、わかりにくい部分も。
今年61本目(合計1,153本目/今月(2024年2月度)14本目)。
(ひとつ前の作品「夜明けのすべて」、次の作品「身代わり忠臣蔵」)
もともとHNKのドラマ等で放映されていたものの劇場版であるので、いわゆる「NHKクオリティ」は担保されており、この意味で映画のストーリーについてわかりにくいとか、配慮に欠く点はあまり見られません。
大手の映画館で見てきたのですが、男女同権思想に関する映画が放映された意義は非常に大きいものと思います。どうしてもミニシアター中心となりがちなこの手の映画が大手で放映された意義は大きいと思います。
一方で、この映画を見ているとわかりにくい点や、明確に配慮を欠く点もあり、法律系資格持ちはそこが気になったところです。ただ、この点は「そういう考え方もあるか」程度で大きくは引いていません。有料パンフには載っているのかもしれませんが、私なりに知っているところ書いておきます(これから見る方への参考用)。
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(減点0.3/甘粕事件に対する配慮が足りない)
この事件は、関東大震災において発生した事件で実際に警察権力が軍法会議にかけられた「ほぼ唯一の例」ですが、描き方に配慮が欲しかったです(後述)。
(減点0.2/「検束」についての記述が難しい)
この点は、帝国憲法時代の行政法の考え方で行われていたものですが、現在は「姿をかえて残っている部分もある」もので、何らか説明字幕が欲しかったです。
(減点なし/参考/この映画の海外進出について)
この映画はその趣旨上、帝国憲法時代の憲法・行政法の事項がかなり出ますので(「検束」が代表例)、これらのことを海外で把握するのは結構難しいんじゃないかと思います(日本の行政法はドイツからもたらされたものです)。
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(減点なし/参考/甘粕事件について)
関東大震災においては、「福田村事件」で描かれるように、官民とわず混乱が生じ、いろいろな理不尽な事件が起きましたが、その中でも「警察権力が起こした事件」については、ほぼ全てが「混乱状態にある仕方のないことである」ということで何ら責任を問われていません(亀戸事件など)。
ただこの事件は実際に軍法会議にかけられた「唯一の例」であり、同じ時期に起きた官民とわないこうした事件において、この事件の当事者「だけ」が軍法会議にかけられたというのはやや平等性原則をかくと同時に、当時はこの通り軍法会議でしたが、軍法会議は1審制でした(大審院(今の最高裁)への控訴は原則できなかった)。またこの軍法会議裁判は非公開であり、真に公平公正な裁判が行われていたのかというと微妙な部分があります。
(減点なし/参考/「検束」とは何か) ※海外において理解がしがたい
当時も警察権力が「酔っ払い」や「病人」を一時保護することは認められていましたが(保護検束)、一方で「思想上危険と思われる人を勝手に検束する」(予防検束)があり、後者が特に思想弾圧で濫用された(法律上、1日で釈放しなければならなかったが、保護する警察署を変えることで日数をいくらでも伸ばせる欠陥法だった)事情があります。
なお、現在の日本においては、「保護」として「酔っ払いや病人を一時保護する制度」は残っています(現在の日本国憲法の制定に伴い、人権侵害以外の何物でもない予防検束は廃止されました)。
(減点なし/参考/第一の「事件」の犯人について)
この人物は逮捕され刑に処されますが、その後、「売春防止法」の制定に尽力した人物です。
『ルイズ その旅立ち』には、虐殺に巻き込まれた大杉氏の甥の橘宗一氏の「犬によって虐殺された」という父が刻んだ墓碑の逸話が紹介されています。橘氏がアメリカ国籍で、アメリカ大使館にも届け出がなされていて、警視庁も無視できない情況だったということのようです。