劇場公開日 2024年10月19日

「【”落魄、そして娘の再生。”今作は、現代ロシアの辺境に住む人達の実情を描きながら、野外映画の上映を生業とする父と娘の姿を描いた閉塞感、荒涼感、寂寥感と微かな希望を描いたロードムービーの逸品である。】」グレース NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【”落魄、そして娘の再生。”今作は、現代ロシアの辺境に住む人達の実情を描きながら、野外映画の上映を生業とする父と娘の姿を描いた閉塞感、荒涼感、寂寥感と微かな希望を描いたロードムービーの逸品である。】

2024年12月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

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幸せ

<Caution!内容に触れています。>

ー 今作では主要登場人物の野外映画を上映する事を生業とする父と10代後半の少女が色合わせた赤いオンボロバンで、ロシアの辺境を延々と旅をする。
  二人の名前は、一度も劇中では語られず、男の妻は既に亡くなっており、旅を15年続けている事だけが語られる。
  名前などは必要ないという事だろう。
  それにしても、この映画が良く当局の規制に掛からずに、外国で上映されたモノだなあ、と思いながら、しみじみと鑑賞した作品である。ー

  舞台は、ほぼロシアの辺境である。この時代にワイファイもないので、二人が巡る村々では野外上映の映画が、楽しみらしい。序でに二人はポルノDVDなども、コッソリ売っている。
  冒頭、二人が訪れた村で、男の子達がバルカル語で、”都会に行きたいね。パリに行ってフランス語で話してみたいね。”と言っているが、二人の前には山々が広がっているだけで、どうもその夢は、叶いそうもない。

  父はインテリのようで、車内で本を読みふけり、途中で”野外本屋”から本も買っている。父と娘の関係性はあまり良くないようだが、娘は自分の仕事はしっかりとしている。

  一度だけ、二人は都会のショッピングモールに行く。ポルノをコピーするDVDを多数買い、娘は下着を買ってトイレで着替えている。だが、二人はモールの片隅にバンを停めている。ロシアの格差社会を描いているのかな、と少しだけ思う。

  或る村で上映会を開いた時に、一人の少年がスクリーンを張る手伝いをする。彼は娘に気があるようだが、娘には拒絶される。が、彼は日本製のバイクで付いてくるのである。

  二人から買ったポルノをコッソリと見ている少年達。だが、彼らはその姿を見つけられ、それを売った男と娘はバンで逃げ出すのである。

  或る村に行く途中、バンは警備の者に止められる。
  魚が感染したという理由で道が封鎖されている。男と娘はその湖の畔に立つ崩れかけた館に宿を取る。湖では防御服を着た男達が死んだ魚をアミで掬っている。
  宿の女主は、自分が住む館が昔は研究所だったというが、それ以上は語らない。そして、感染した魚を使ってスープを振舞う。
  そこに少年がやって来て、娘は少年と出かけ、その間際に父が運転するバンのフロントガラスに岩を投げつける。罅の入ったフロントガラス。
  二人はセックスをした後に、娘は少年の後ろ姿を、いつものようにポラロイドカメラに取り、再び父のバンの元に戻るのである。
  娘には父と違い、やらなければいけない事が有るのである。

 ■そして、娘は冒頭から”海に行きたい。”と言っていた念願の海で、(母のモノと思われる)骨壺の蓋をポイと捨てて、中の遺灰を海に撒いて、その場を後にするのである。
  このシーンのアングルの取り方がとても良い。最初は望遠で撮りながら、徐々に娘の顔を手持ちカメラでアップして映し出すのである。

<今作は、現代ロシアの辺境に住む人たちの実情を描きながら、野外映画を上映する事を生業とする父と娘の姿を描いた閉塞感、荒涼感、寂寥感溢れるロードムービーなのである。
 だが、その過程で娘は父とは違う道を見つけたように、私には見えたのである。
 そして、この映画が良く当局の規制に掛からずに、外国で上映されたモノだなあ、と思いながら、何だか、しみじみと鑑賞した作品である。>

<2024年12月22日 刈谷日劇にて観賞>

NOBU
Bacchusさんのコメント
2024年12月22日

東京では、少しマニアックな単館1館のみでしかかかっていませんでした。
面白かったですけどね。

Bacchus