グレースのレビュー・感想・評価
全13件を表示
【”落魄、そして娘の再生。”今作は、現代ロシアの辺境に住む人達の実情を描きながら、野外映画の上映を生業とする父と娘の姿を描いた閉塞感、荒涼感、寂寥感と微かな希望を描いたロードムービーの逸品である。】
<Caution!内容に触れています。>
ー 今作では主要登場人物の野外映画を上映する事を生業とする父と10代後半の少女が色合わせた赤いオンボロバンで、ロシアの辺境を延々と旅をする。
二人の名前は、一度も劇中では語られず、男の妻は既に亡くなっており、旅を15年続けている事だけが語られる。
名前などは必要ないという事だろう。
それにしても、この映画が良く当局の規制に掛からずに、外国で上映されたモノだなあ、と思いながら、しみじみと鑑賞した作品である。ー
舞台は、ほぼロシアの辺境である。この時代にワイファイもないので、二人が巡る村々では野外上映の映画が、楽しみらしい。序でに二人はポルノDVDなども、コッソリ売っている。
冒頭、二人が訪れた村で、男の子達がバルカル語で、”都会に行きたいね。パリに行ってフランス語で話してみたいね。”と言っているが、二人の前には山々が広がっているだけで、どうもその夢は、叶いそうもない。
父はインテリのようで、車内で本を読みふけり、途中で”野外本屋”から本も買っている。父と娘の関係性はあまり良くないようだが、娘は自分の仕事はしっかりとしている。
一度だけ、二人は都会のショッピングモールに行く。ポルノをコピーするDVDを多数買い、娘は下着を買ってトイレで着替えている。だが、二人はモールの片隅にバンを停めている。ロシアの格差社会を描いているのかな、と少しだけ思う。
或る村で上映会を開いた時に、一人の少年がスクリーンを張る手伝いをする。彼は娘に気があるようだが、娘には拒絶される。が、彼は日本製のバイクで付いてくるのである。
二人から買ったポルノをコッソリと見ている少年達。だが、彼らはその姿を見つけられ、それを売った男と娘はバンで逃げ出すのである。
或る村に行く途中、バンは警備の者に止められる。
魚が感染したという理由で道が封鎖されている。男と娘はその湖の畔に立つ崩れかけた館に宿を取る。湖では防御服を着た男達が死んだ魚をアミで掬っている。
宿の女主は、自分が住む館が昔は研究所だったというが、それ以上は語らない。そして、感染した魚を使ってスープを振舞う。
そこに少年がやって来て、娘は少年と出かけ、その間際に父が運転するバンのフロントガラスに岩を投げつける。罅の入ったフロントガラス。
二人はセックスをした後に、娘は少年の後ろ姿を、いつものようにポラロイドカメラに取り、再び父のバンの元に戻るのである。
娘には父と違い、やらなければいけない事が有るのである。
■そして、娘は冒頭から”海に行きたい。”と言っていた念願の海で、(母のモノと思われる)骨壺の蓋をポイと捨てて、中の遺灰を海に撒いて、その場を後にするのである。
このシーンのアングルの取り方がとても良い。最初は望遠で撮りながら、徐々に娘の顔を手持ちカメラでアップして映し出すのである。
<今作は、現代ロシアの辺境に住む人たちの実情を描きながら、野外映画を上映する事を生業とする父と娘の姿を描いた閉塞感、荒涼感、寂寥感溢れるロードムービーなのである。
だが、その過程で娘は父とは違う道を見つけたように、私には見えたのである。
そして、この映画が良く当局の規制に掛からずに、外国で上映されたモノだなあ、と思いながら、何だか、しみじみと鑑賞した作品である。>
<2024年12月22日 刈谷日劇にて観賞>
70点ぐらい。荒涼とした美しさ
ロシアの辺境地に確固として存在した「生と性」
まあまあだ
ドラマ性はあるけどストーリー性が薄く、展開がゆっくりでだるい。荒涼としたロシアの景色は絵になるが、もうちょっとテンポが良くてもいい。グレースが男の子と車のフロントガラスを割って家出したと思ったら戻るところがリアルだ。
映画の質感がたまらない
現実的ながらのファンタジー??
寒すぎる。
あまりに荒涼としすぎて、別の惑星ではないか?という風景を彷徨う父娘。娘が女になるイニシエーション的なエピソードを切り抜いた、果てしのない物語の断片という佇まい。ロシアの荒野、未来を喪失したかのような生気のない人々。南の穀倉地帯ウクライナを手に入れたいという欲求、その事象の因子でもあろう。
憧れのヤシの木
ロシア南西部の山岳地帯や平原を旅して映画上映やDVD販売を生業とする父娘の話。
山岳地帯の川で水を汲む女性から始まって行くけれど…えっ?誰だったの?まさかこんな場所で?
海へ行きたいと宣う退屈そうにガムパッチンな娘を乗せて、時々商売や買い物をしながら赤いポンコツワゴンでキャラバン生活。
会話もあまり多くないし、地名を言われても良くわからないし、何もないところを走ること多々。
娘にしてもそこら辺にいる子どもや若者たちにしても、何もないという鬱屈観全開で、それが伝わってくるまったりなつくり。
これを15年って…。
最後は少しだけ動いたけれど、思ったのと違ったのか、諦めたのか、それとも最初からそれだけのつもりだったのか…フロントガラスの行もあるしどう捉えるかちょっと難しかった。
ロシア期待の若手。
世界的に逆風吹き荒れるロシアですが、若手の良い作品をちゃんとピックアップできるのは流石カンヌ。
ドキュメント撮ってた監督らしく、予算の関係もあるだろう16mmフィルムの映像はリアリティバリバリでよい。皆んなが言うようにヴェンダース初期やタルコフスキーみたいなベタっとした固定アングル長回しとハンディのコントラストが上手くいってる。
出演者も黙ってるシーン多いからルックは重要でオーディションも大変だったろう。
いきなり「少女椿」かよ!と先制パンチをくらったが話はシンプルで進みが遅いから気をつけて。
最後まで見るとなるほどこのパターンのロードムービーかと腑に落ちます。次作が気になる監督だがウクライナ侵攻には反対姿勢を表明しているらしく、ちょっと心配である。とっとと近隣国に逃げて次作を作って下さい。
近作だと「葬送のカーネーション」思い出したかな。
どちらも辺境の話、こういう土地の映画はキチンとパンフ買う事にして後でその土地の歴史や現状辿るようにしてます。人生は学びの連続じゃ。
あ、あと見所はロシア南西部から旅立って何も無い荒地を映画目当てに突っ走る車、巨大ショッピングモール、そして人々が去った田舎の廃墟がほんと美術セットの様に美しいです。荒々しい北の海バレンツ海(約北極海)と移動映画館で見る水着とビーチサイドのコントラスト。日本だと畑の跡取りもいなくなった廃村って感じだろうか。いや昔は栄えた漁村かなぁ、、。
救済のロードムービー
救済感のあるロードムービーだし、青山真治のユリイカを思い出さずにはいられない。ロシアといえば忌避感をちょっと感じてしまう時代だけど、それでもカンヌ映画祭が選んだのには納得の内容。テレビでは取り上げられないような、民族や文化を丁寧に写していて、はっとした。最後はあっけなくて戸惑ったけど、すごく腑に落ちた。鑑賞後にじわじわくるやつです。
旅は大人の階段を昇る通過儀礼
ロシア南西部の辺境にあるコーカサスを征く、年齢不詳で名前も明かされない父と娘のロードムービー。違法DVDを売り、巡回上映をする事で生活費を稼ぐ2人が、何の目的に旅をしているかは明示されない。ハッキリしているのは、娘が海に行きたがっている事と、肌身離さず小さい壺を持ち歩いている事。終盤で娘の理由および壺の中身が明らかとなるが、それは旅の道中が通過儀礼となり、大人の階段を昇った娘の成長とイコールとなる。
明らかに地球に存在する地なのに、どこかディストピアな様相を醸し出し、ロシアが舞台ということもあってかタルコフスキー作品とダブる。劇伴もなくセリフも極端に少ないドキュメンタリータッチの作風は、観る者の理解力が問われる。それが合わない人は本当に辛いかもしれない。ただハッキリ言えるのは、ロシアという広大な国だからこそ本作の制作が実現したという事だ。
全13件を表示