劇場公開日 2024年6月21日

  • 予告編を見る

「佐藤愛子流亡国論」九十歳。何がめでたい かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5佐藤愛子流亡国論

2025年7月23日
Androidアプリから投稿

90歳(現在はなんと100歳!を超えている)の女流小説家佐藤愛子を、1933年生まれの草笛光子が演じている卒寿記念作品だ。数年前に81歳で亡くなったうちの母親が図書館からよく借りてきた佐藤愛子のエッセイ集を数冊読んだことがあるのだが、本質をズバリと突く忖度のない鋭い舌鋒に、妙な説得力があったことを今でも覚えている。そんな佐藤愛子先生がいまだご存命で、90を超えてから出版した2冊のエッセイ集が本を読まなくなった若い世代にも受け入れられ、合計180万部を超える大ベストセラーになったというから2度驚いたのである。

この愛子先生、アメリカのリベラル政権が日本を弱体化させるべく押し付けた幻想のイデオロギー“コンプライアンス”などには目もくれない。新聞三誌に掲載された記事の矛盾点を、大きな眼(まなこ)をさらに大きくしながら拡大鏡で探し出し、それをエッセイにまとめあげる着眼力はいまだ衰えていないようだ。若かりし時は、エミリー・ブラントに勝るとも劣らないほどの美人女優だった草笛光子が、人生の最終コーナーにおいて新境地を切り開いている。

スマホに頼れば頼るほど日本人は馬鹿になる論争をタクシー運転手(三谷幸喜)と繰り広げたかと思えば、子供のはしゃぎ声をうるさがる昨今の風潮と戦時中空襲警報がなると不気味なほど街が静まりかえった記憶との見事な対比、さらには早死にしたシバワンコに与え続けたぐちゃぐちゃ飯にまつわる涙のエピソード等々を繋げた編集はまったく違和感がなく、すんなりと日本人のハートに刺さってくるだろう。

ビル・ゲイツが、昨年11月の米国大統領選挙における民主党敗北の原因の一つに、保守化したZ世代が予想外に多かったことをあげていた。世界がグローバル化するにともない曖昧になった善悪の判断基準を、大正生まれの暴走老人に今一度正してもらいたい、そんな潜在欲求が日本の若者の間にも残っていたからではないだろうか。まるで腫れ物にでも触るかのように接してくるコンプライアンスな大人たちとは違って、「ダメなものはダメ」とハッキリ言いきってほしかったのではないだろうか。

そのご意見番と名コンビを組む編集者が、『ふてほど』のアベサダを彷彿とさせるパワハラオジサン吉川(唐沢寿明)なのである。面倒臭いと言ってなかなか筆をとろうとしない佐藤愛子を、(もち自腹の)お土産攻撃で懐柔し、最後は同情作戦で見事籠絡に成功するのである。米国との関税交渉回答を「どうか参院選が終わるまで待ってください」の一点張り土下座営業で今の今まで引き伸ばしてきたピストン赤沢と双璧の粘り強さを、とびこみ営業などしたことのない君たちも是非見習うべきだろう。

故石原慎太郎が生前、故安倍晋三&麻生太郎に対し、国会で憲法改正質疑をぶつけた思い出の動画を最近YOUTUBEで発見した。この中で石原は、死んだ父親の亡骸をミイラ化するまで家に放置し年金搾取を働いた子供の話をしていた。その日本精神性崩壊の原因をマッカーサーに押し付けられた憲法に求めた暴論も、この映画を観ているとあながち誤りでもないと思えるようになったのである。なぜならば、(小津安二郎が生きていればもちろん)佐藤愛子ならびに石原慎太郎の亡国論は、まちがいなく戦後アメリカに押しつけられた新しい価値観に対する違和感に依拠しているからである。

コメントする
かなり悪いオヤジ
PR U-NEXTで本編を観る