「映画とエッセーは、合わせて評価。」九十歳。何がめでたい ガバチョさんの映画レビュー(感想・評価)
映画とエッセーは、合わせて評価。
「九十歳。何がめでたい」タイトルがいい。以前ならば長寿は喜ばしい事であり、皆が祝うものであった。しかし、実際に九十歳を超えた作家佐藤愛子は、本人にしか分からない悩みや憤りを抱え、高齢であることがとても「めでたい」ものではないことを実感していた。佐藤愛子の反骨精神と言うか「へそ曲がり」な性質がよく表れているタイトルである。
現役を引退して、平和で豊かな老後を送る人もいる。しかし作家というのは、心の中を文章で表現せずにはいられない人種である。特に佐藤愛子のような「我が強い」人はなおさらである。書くことをやめたら、自分の居場所がなくなるだろう。映画開始早々の彼女のやる気のなさはまさにそんな状態である。
編集の吉川と佐藤は、相性ピッタリである。遠慮なく相手に文句が言えるところがいい。お互いに我が強くて世間一般の常識から少し外れたところで生きている。二人とも自分が自分らしく生きられる場所を探して生きてきた似た者同士である。佐藤愛子は断筆宣言して自分を見失うが、執筆再開したエッセーで世間の評判を得ることになる。吉川は時代遅れとされる仕事ぶりで会社での立場が危うくなるが、佐藤愛子のエッセーを世に送り出して自分なりのやり方を貫いた。別れることになった妻娘との関係を修復できたのも、愛子先生のおかげかもしれない。そういう意味でも二人はいいコンビである。
エッセーの「九十歳。何がめでたい」は、この作品の原作というよりは、裏話的なストーリーなので、エッセーの面白さはあまり伝わらない。エッセーを読んで本当に面白いと思えたら、この映画の評価もその分上がるだろうと思える。すぐに読んでみようと思う。
草笛光子さんはじめ、ご高齢で活躍されている方(特に女性)が多い。敬意を表したい。