「故郷の川に向かいて言うことなし」罪と悪 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
故郷の川に向かいて言うことなし
『クリント・イーストウッド』の〔ミスティック・リバー(2003年)〕は
『デニス・ルヘイン』原作の映画化で且つ秀作。
本作は監督・脚本の『齊藤勇起』によるオリジナルも、
設定を含め同作からの影響や引用が散見。
中学校のサッカー部に所属する仲の良い四人組。
そのうちの一人が増水した河川敷で遺体で発見され
残された三人は郊外の廃屋に住む男を犯人と疑い押し掛けるが
そこで事件は起きる。
それからニ十年後、
うち一人は尊敬する父親に倣い刑事として町に戻り、
また一人は地元でトマト農家となり、
もう一人は少年院を出所した後、町の顔役になる。
そしてまた昔と同じように、
河川敷で青年の他殺体が発見され
三人は否応なく過去に向き合うことに。
あまり良い言い方ではないが
〔ミスティック・リバー〕の記憶が強烈なため
本作はかなり霞んで見えてしまう。
なにがしかの新機軸を打ち出せれば良かったのだが。
同じように狭い世間の話しながら、
更に小さく纏まってしまっている印象。
『春(高良健吾)』一人が罪をかぶったことにより咎を逃れた
『晃(大東駿介)』と『朔(石田卓也)』の贖罪がテーマかと思いきや
二つ目の死体が出たことで
俄然謎解きの要素が強くなる。
誰が何の為に、夫々の事件を起こしたのか。
独立事象と見えた二つの殺人は、しかし
ある証拠が出たことから一転
繋がっている疑いが出て来る。
しかし、この証拠の存在そのものが
いかにも不自然で収まりの悪いことこの上なし。
また、二つ目の殺人が
どうして可能なのかも
最後まで釈然としないまま。
本編では閉塞した狭い世間ゆえに起きた幾つもの事件であることも語られるが
これも取って付けたよう。
『春』が思い描く自分の未来と
『晃』が目指すしがらみのない世間のカタチは
単に語られるだけで、
どのように成し遂げられるかも明らかにされないことにも不満が残る。
大言だけあって、観客には提示されることはない。
そんな人間の営みとは関係なしに、
舞台となった町の中を
我関せずとばかりに滔々と川は流れる。
存在感を見せつけるように。