「脱出行程の緊迫感もさることながら、本作公開以降の関係者の行く末が気になってしまう一作」ビヨンド・ユートピア 脱北 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
脱出行程の緊迫感もさることながら、本作公開以降の関係者の行く末が気になってしまう一作
脱北を試みる家族に同行した撮影スタッフが収めた映像は、全て現実に起きている、という生々しい緊迫感に満ちていました。
いくつもの国境を越えての移動は、ましてや体力的に不安のある高齢者や幼児を伴っていることを踏まえると、その苦難は確かに想像を絶するものがあります。他方では家族との無事な再会を祈るしかない家族、親族も、吉報をただ待つ時間は無限に長く感じたに違いなく、そのやるせない表情もまた強烈な印象を残します。
ドキュメンタリー映像作家として著名なマドレーヌ・ギャビン監督とはいえ、当局に捕まれば極刑は免れない状況でここまで綿密に脱北者との同行計画を立て、実行したことに驚き。
キム・ソンウン牧師ら脱北者支援ネットワークの人々やその活動も、もちろんある程度の詳細は伏せているとはいえ、映像に収め、公開することにはかなりの危険性が伴うはず。作中でも脱北者が語るように、当局が脱北者の家族、親族に極刑を含めた苛烈な制裁を科すのであれば、こうして世界中に公開となって以降も、彼らは無事に生活を送ることができるんだろうか、と、むしろ公開後について懸念してしまいました。
最高指導者に対する敬慕の念を抱きつつ、しかし故国から脱出せざえるを得ないという脱北者の苦悩は、単に洗脳、とか盲信という一言では片づけることができないような複雑さを感じました。その戸惑いを静かに語る場面もまた、本作のクライマックスの一つととらえて良いのでは。
コメントする