「【”地上の楽園、世界で一番立派な人が治める国”からの命懸けの脱出過程を描いたスリリング過ぎるドキュメンタリー映画。脱北者の若き女性が語る真の彼の国の姿にも戦慄する作品でもある。】」ビヨンド・ユートピア 脱北 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”地上の楽園、世界で一番立派な人が治める国”からの命懸けの脱出過程を描いたスリリング過ぎるドキュメンタリー映画。脱北者の若き女性が語る真の彼の国の姿にも戦慄する作品でもある。】
■最初に敢えて書くが、私はドキュメンタリー映画を観る際には、心の何処かに懐疑的なモノを持ちながら鑑賞するようにしている。
それは、且つて「主戦場」というドキュメンタリー映画を観た際に、衝撃と感銘を受けたのだが、その取材方法を知ってガッカリした苦い思い出があるからである。
ー このドキュメンタリーでは、高齢の女性と幼い女の子2人を含めた5人家族の命懸けの脱北する姿と、母と息子を彼の国において脱北した女性の二組の家族の姿が、描かれる。
そして、且つて彼の国を脱北したイ・ヒョンソさんが語る、マスゲームの実態なども、印象的な作品である。-
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・私は、数作であるが、彼の国に関わるドキュメンタリー映画を観て来た。その中では彼の国では”金”一族が神聖化され、”地上の楽園”と呼ばれ、日本からも多くの方々が且つて渡って行った事が描かれていた。
・だが、今作を観ると、矢張り彼の国は”地上の楽園”とは、程遠い状態になっているようである。
特に、現在、彼の国の痩せた主要人物の中で、一人だけ妙に太っている”トッチャンぼーや”が国を治めるようになってから、状況はドンドン悪化している事は周知の事実である。
”トッチャンぼーや”が世襲により、トップに立った時に、一番驚いたのは、彼の国の中で比較的自由思想を持っていた最高幹部の一人、張成沢の粛清である。”トッチャンぼーや”は、一番警戒する人物に経済政策の失敗の罪をなすり付け、酷いレッテルを貼り粛清した。
この事実は、当時驚きと恐れを持って日本でも報道されたので、覚えている人も多い筈である。その後、彼の国では”トッチャンぼーや”に表面上は逆らう人は居なくなった。
だが、経済政策の失敗により、彼の国は一層貧しくなっているが、”トッチャンぼーや”は、核開発に予算の多くを割き、飛翔体を定期的に日本に向けて撃ち始めている。
劇中でも描かれているように、”トッチャンぼーや”がトップに立ってから、街中で餓死者が出ているのにである。
・今作では、
1.高齢の女性と幼い女の子2人を含めた5人家族
2.母と息子を彼の国において脱北した女性の二組の家族の姿が、描かれる。
1.の家族は一番警戒すべき“彼の国と最も近しい、且つ脱北者を見つけると、年収の半額近くを貰えるという中国”を抜ける。当然、このドキュメンタリーでは中国を抜ける映像は殆どない。音声が少しだけである。
ベトナムの過酷な山越えをする辺りから、カラーで映像が映し出されるが、ベトナムも又“彼の国と近しい国”であり、次に向かうラオスも同様であるが徐々に家族を映すシーンが多くなってくる。
ここで、驚き、恐ろしかったのは高齢の母親はともかく、幼き娘二人が”トッチャンぼーや”のことを”世界で一番立派な人”と言うシーンである。洗脳の恐ろしさや、他の国の状況を知らない恐ろしさを感じたシーンである。
2.の家族の末路は悲しい。息子は鴨緑江で中国に捕まり、強制収容所へ送られた事がブローカーから連絡が入る。母は泣き崩れるのみである。
・韓国のキム・ソンウン牧師は、1.の家族の1万2千キロにおよぶ脱北を助ける。1000人以上の脱北者を支援してきた彼の行為は如何に宣教活動とは言え、危険過ぎる。だが、彼は中国にも入国出来ない状況下、”地下活動”の主要メンバーとして、活動を続けている。立派過ぎるが、彼の身の危険も考えてしまうのである。
なにしろ、”トッチャンぼーや”は兄弟でも暗殺してしまうからである。(この事件についても、ドキュメンタリー映画が製作されている。)
<この映画を観て、改めて思ったのは彼の国の現在の危険な状況である。彼の国は共産主義を謳っているが、実際は”独裁国家”である。
劇中でも言われているが、彼のナチスと同様の状況になっている。隣人が隣人をスパイとして密告し、報奨金を得る国。国のトップが餓える民の事を考えずに、飛翔体を撃ち続ける国である。
私は、現在の世界に置いて、一番の驚異の国はロシアでもイスラエルでもなく、核兵器開発に邁進する彼の国であると思っている持論を、このドキュメンタリー映画を観て確信したのである。>