「悲劇を消費するとは?」ビヨンド・ユートピア 脱北 La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
悲劇を消費するとは?
タリバンの処刑者リストに挙げられた男性が家族と共にアフガニスタンを脱出してヨーロッパに向かう過程を自身で撮影し続けた『ミッドナイト・トラベラー』(2021)というドキュメンタリーがありました。本作は、ある意味では更に過酷でリスクの高い北朝鮮から韓国への逃避行、いわゆる脱北を試みる家族を脱北ブローカーや協力者の手を借りて撮影し続けた記録です。
北朝鮮と韓国は勿論隣国同士なのですが、37度線の越境は余りに危険性が高すぎるので脱北には、北朝鮮 → 中国 → ベトナム → ラオス → タイ という複雑な経路を辿らざるを得ません。しかも、ラオスまでの国々は北朝鮮と国交があるので身分がバレると強制送還の憂き目に遭う可能性のみならず、人身売買市場に売られてしまうとんでもないリスクもあります。
その旅の途中で語られる北朝鮮の貧困の厳しさ、公開処刑の残忍さ、強制収容所の過酷さには声を失い、逃亡中の隠れ家の部屋で初めて見た液晶TV画面を「学校の黒板だと思った」と語ったり、幼い子供がポップコーンを見て「これは何?」と首を傾げる姿には溜め息が漏れます。
そうして塀の上を恐る恐る歩く様に行程を進める家族の姿に我々はハラハラするのですが、僕は徐々に妙な思いがして来ました。
「僕は、このプロセスをサスペンス映画として消費してるんじゃないのかな?」
注意していると、この作品自体も所々に音楽を挿入して政治の醜悪さや逃避行の切迫感を煽っている様にも感じました。「ドキュメンタリーは他人の不幸を食い物にしている」とはしばしば指摘される事ですが、世界で現在起きている事を多くの人に観て貰うには仕方ない事という一面もあるでしょう。う~ん、難しいけど、この作品は音楽なしで事実の鋭さで勝負すべきじゃなかったのかなぁ