「本物だとしても、今後の逃避行経路はどうするのか?」ビヨンド・ユートピア 脱北 てつさんの映画レビュー(感想・評価)
本物だとしても、今後の逃避行経路はどうするのか?
クリックして本文を読む
20歳の頃、北朝鮮のプロパガンダ映画で、植民地支配していた日本軍を金日成将軍が馬に跨がって追い払うというものを当時の東京国立近代美術館フィルムセンターで観たことがある。本作によると、聖書のイエス降誕に準えた伝説がつくられたり、「鬼畜米英」あるいは「日本鬼子」にも相当するような「憎きアメリカ」という形容付の敵国呼称が存在するらしい。
近年の『蒼のシンフォニー』では、日本の朝鮮学校の生徒たちが、北朝鮮を公式訪問し、平穏な日常生活に触れるというものであったが、本作では、脱北者たちが否定的に表現する映像が投影される。
題名は忘れたが、小舟で南北朝鮮を独り行き来した男性の話を描いた映画を観たことがある。本作では、中国に抜けて、ベトナム、ラオスと、延々1万2千km にも及ぶ逃避行を敢行するということらしい。そういう物語の設定に添ってフィクション映像がつくられてもおかしくないくらいつながっている。想田和弘氏は、脱北者自身にカメラをもたせたことを「常識破りの手法」と評価しているが、難民の逃避行を描いた作品等にも、同様の手法を取ったものがあるような気がする。映像が本物だとしても、こうして実在経路を映画として公開してしまうと、この経路は秘密ではなくなるので、今後は使えなくなってしまうということではないのか。脱北支援活動家が、本作の制作、公開をなぜ許可したのか、理解に苦しむ。
コメントする