劇場公開日 2024年6月7日

あんのことのレビュー・感想・評価

全313件中、1~20件目を表示

4.5どうしたら彼女を救えたのか

2025年1月16日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

彼女がひとつひとつ立てた自分の居場所や、やりがいや、自尊心が、ドミノ倒しのようにバタバタと倒れていく残酷さや無慈悲さに、胸が苦しくなる作品だった。これが実話だなんて…。

彼女を地獄から救ってくれたのも、突き落としたのも、彼女に関わった人々。
学ぶこと、考えることを幼少期の虐待によって奪われた彼女にとって、他人からの影響で簡単に人生を左右されてしまう。それが悲しい。
多々羅刑事が杏を救いたい、助けたいと想う気持ちには嘘は無かったと思いたい。誰かにとっては良い人でも、誰かにとっては悪い人、人間ってそういう生き物なんだと思い知らされた。

コロナ禍を過ごした今、あの時期を振り返ると確かに異常な日々だった。
人と人との繋がりで成り立つ社会で、感染防止を名目に人と人とのコミュニケーションを断ち切ろうとする社会だった。けれど人間は、身体の健康と同じくらい心の健康も大事。身体の健康だけを重視し、心の健康をおざなりにした結果招いた悲劇のように感じた。
あの時、杏のような想いであの日々を過ごした人は、たくさんいたんだろうな。

どうしたら彼女を救えたのか、映画を見た後そればかりを考えてしまう。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
AZU

1.5ヤッパリ観なければよかった。

2024年9月14日
Androidアプリから投稿

2024年上半期の邦画で非常に評価の高い作品ということで、果たしてあまのじゃくのオレが見ていい映画かどうか迷ったが。

「あんのこと」



ヤッパリ観なければよかった。すまん。

お客様が入ってなんぼ、という意味では大成功で、この映画は「あの花が咲く丘で君とまた出会えたら」と同じく、その成果にはとても感服する。

おそらく製作陣が意識したであろう、過剰に哀れな描写はしないという姿勢とは全く真逆の演技と生活描写が目につく。一方、今生存している人類が二度と経験しないであろう、世紀のコロナ流行に、対処している団体、自治体は描かれない。

各キャラクターそれぞれに深みを持たせない設定、描写は理解するが、カラオケで「ランナウェイ」を歌わせるには、その意味が唯一見出せるであろう歌詞の一節を歌わせなかったり、あえての浮世離れの役者起用で、存在感を薄く設定したキャラクターが、思いっきり腰から崩れる。

ごみ捨てはできないが、児相に電話でき、本人の都合通り対処できる母。児相がその家を訪れた描写がないのは、あえて省略したのだろう。主人公を追い詰めないといけないので、そんな脱線はできない、ということだろう。

ラストの母子家庭の廊下のワンカットに希望を見いだせた人は、素晴らしい人で、うやましい限り。

面会シーンでいうと、両者ともに「良心もあるが等しくクズ」で、言い訳、言い逃れ、といった自己弁護、罪悪感のぶつけ合い、という意味があるなら、成功しているかもしれないが、当時を舞台にするならば、いっそそこだけはコロナのせい、と言ってしまったほうがよかったような気もする。

といったように、本作の各キャラクターに関して、「なぜ」の理由は要らないとは思うが、彼らの「背景」には「なぜ」そして「なぜそうなったか」の問題提起を匂わす描写、あるいは問いかけは絶対に必要だと思ったが、よけいなことは入れずに、「主人公熱演」、「救いのない」といった感想にあふれる結果となったのだから、大成功ですね。

コメントする 2件)
共感した! 31件)
しんざん

5.0河合優実は今年を代表する役者

2024年6月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

いつもの入江監督のスタイルとは異なるテイストの作品に仕上がっている。できるだけ監督自身の采配を芝居に入れずに観察・記録に徹するようなやり方を今回は選択している。そのやり方が成立するのは、役者への信頼ゆえだが、その信頼に120%役者たちが応えている。主演の河合優実は本作と『ナミビア砂漠』と『ルックバック』で、今年を代表する俳優となると思うが、本作の鬼気迫る芝居は観る人全てをくぎ付けにする。非常に辛く悲しい物語を現実感ある手触りで描いた作品なので、見るのがしんどいと感じる人はいるだろうが、それでも目をそらさせないだけの芝居を彼女がやってのけたおかげで、観客はこの理不尽な現実を受け止めるしかない。
佐藤二朗も善人とも悪人とも決めかねる存在を見事に演じているし、稲垣吾郎の週刊誌記者役もじつにはまっている。母親役の河井青葉もすごい。
実話をベースにしているが、映画のアレンジも加えている(早見あかり関連のシーン)。現実を捻じ曲げたいからではなく、現実の理不尽さを際立たせて伝えるために的確なアレンジだったと思う。この現実にあった理不尽のその本質は何かを真剣に考えたからこそ、生まれたアイディアだったと思う。

コメントする (0件)
共感した! 26件)
杉本穂高

4.0目を開かせ、意識を突き動かす秀作

2024年6月26日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

あんの人生は過酷だ。その少なからず痛みを伴う物語を、いかなる語り口で観客に伝えるか。作り手の腕の見せどころはそこにあるわけだが、本作は巧みにハードルを超え、観客の心を一度掴むと離さない。彼女の人生に触れると誰もが他人事ではいられなくなる。この子が少しでも前へ進めますように。ささやかなれど確実な幸せが訪れますように。そう切に思わせるのが河合優実という人の凄さだ。加えて、佐藤二朗や稲垣吾郎演じる役柄が存在感を添える。すべての人が敵ではない。彼女を守ってくれる人はこの世に存在する。そう思える、信じられる幸福。ただし、この映画はやがて意表突く展開を提示すると共に、誰しもが経験したコロナ時代を無慈悲に突きつける。せっかく積み上げてきたものが音なく崩れ落ちていく無念さーーー。我々は日々、どれほど多くの声なき声や慟哭に気付かぬまま生きているのだろう。閉じた目を開かせ、視野を広げ、意識を突き動かす秀作だ。

コメントする (0件)
共感した! 17件)
牛津厚信

4.5コロナ禍の“日本人像”を記憶にとどめる営み

2024年6月11日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

どちらかといえば娯楽作の印象が強い入江悠監督が脚本も兼ね、コロナ禍である若い女性の身に起きた実際の出来事に着想を得て映画化した、真摯で重苦しい社会派ドラマだ。近年の邦画では、時代背景と人物らの設定で近い部分が多いのは2021年の石井裕也監督作「茜色に焼かれる」だろうか。またコロナ禍とは直接関係ないものの、2020年の大森立嗣監督作「MOTHER マザー」、2023年の工藤将亮監督作「遠いところ」なども社会の底辺でもがく人々の可視化を試みた点で共通する。

本作の杏のように家庭環境に恵まれず社会経験も積めないまま困窮している人々に手を差し伸べる人も、支援する制度や組織もあるにはある。そうしたセーフティネットの脆弱さがコロナ禍によって露呈した面は確かにあったが、すべてをコロナのせいにするのもきっと違うのだろうと、本作を観て痛感させられる。長いものには巻かれる(上が決めたことには異を唱えず従う)、都合の悪いことや面倒なことは見て見ぬふりをしてやり過ごすといった日本人に染み付いた傾向のせいで、想定外の天災に直面して社会的な機能不全を起こし、結果として杏のような存在を追い込んでいったのではないか。

映画鑑賞後にモデルになった女性や出来事に関心を持った方は、「ハナ(仮名) コロナ 朝日新聞」で検索すると2000年6月の記事が見つかる(有料記事のため無料で閲覧できるのは一部のみ)。本作を観る前に記事を読むとネタバレになるので要注意。河合優実の熱演も含め、「あんのこと」を、そしてハナさんのことを忘れるべきではないし、日本人の脆さと弱さを自問し続けなければならないと思う。

コメントする (0件)
共感した! 31件)
高森 郁哉

3.0誰も救われない胸糞悪くなる作品

2025年1月16日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

自宅レイトショー『あんのこと』Amazon Prime Video

映画好きの皆さんの昨年のベストムービーに必ずランクインしてる作品

ある新聞の片隅に掲載された事件が元ネタらしいだけに地味にリアル
ここ数年超注目女優の河合優美主演の話題作

私的に配信待ちでいいかなって事で、アマプラ鑑賞
内容的にはR18ながら露骨な性描写をあえて無しにした感じのPG12
その部分が、誰も救われない虚しい悲哀と妄想を増長させる
なので下世話ですが、観てお得は無し。。。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
eigatama41

4.0ひたすらに救いがない

2025年1月8日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

主人公の人生は本当に救いがない。少し希望が見えたかと思いきやまた絶望。しかも絶望がたたみかける。このもう光を見いだせない深い絶望の描写に既視感を感じた。
あれだ、ジョーカーだ。ホアキン・フェニックス演じるジョーカーの1作目を観たときの感情に似ている。
ジョーカーは闇堕ちして別人になることで自分を守っていたけど、杏は闇堕ちと言うよりかは自分に失望してしまった。
杏の人生のどこかで、どんなきっかけがあったらこの子は救われたんだろう…そんなことをずっと考えている。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
ちゃんるー

3.5殺虫剤を撒く前に。

2025年1月6日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

単純

こんな悲惨な話がほぼノンフィクションなんて!という反応は、まんま日本人の平和ボケを象徴していると思う。
これが訳アリちゃんの胸糞ストーリーなら、全国に何百何千と実在する「あん」達の人生は胸糞って事なのか?それじゃ余りにも悲しいだろう。

救いがあるとすれば「頑張ったけどダメだった」ところではないだろうか。スタートラインにすら立てなかった者達がいる事を知るべきだ。
どうせ私たちに出来ることなんて他に何も無いのだから。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
や

3.5近頃の浮ついた自分への覚醒剤

2025年1月3日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

この手のしんどい映画は敬遠している。
なんでこんなつらい映画を作るのだろう、
それが現実だとしても、他に方法があるのではないか?という思い。
しかし、友達がハマったという話を聞き、
最近、何か浮ついた自分を感じていたので、ガツンとやってもらった。
それは期待通り。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
ぜん

2.5話題性、過激性、マーケティングに問題あり

2024年12月29日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

河合優実主演で話題作になるかと思えば都内なのに上映劇場は少なく配信もすぐ終わった。
これでは観ないでくださいとでも言っているよう。

やっとPrimeビデオで観れたので見た。

PG12なのに性的なシーンなど皆無
ただラリってる風なシーンのみ
暴力シーンも軽微なものしかなくPG12にする必要あった?

せっかく河合優実が主演を承諾したなら
「闇の子供たち」くらいの事したら良かったのに。

新聞記事が元だと言う事だから活字からの実写化だからかリアル性にも欠けるような淡々さ。
杏は薬物中毒者であるがSEXワーカーを強いられている虐待児なのに
体を売るのが日常であった事が1ミリも描かれておらず
現実を知らない脳天気日本人にキレイなところだけ見せて終わりにして可哀想を誘う映画。

馬鹿なの?

この手の事実はいつだってあるし、他にもニュースになった実話は沢山あるよね。
最初から最後まで救いがないようにたんたんと流れていくが、
心臓がびっくりしないように活字だけから作った淡白なお話。

同じSEXワーカーを描いた「エゴイスト」はフィクションであれもリアル性にはかけたがまだマシだった。

この手の映画は人に観てもらわなければなんの啓発にもならない。
もっとまともな作品作りをすれば河合優実の代表作にもなったかもしれないのに。

残念だ。こんな映画で心が痛くなったとかほざくお花畑日本人がいたら失笑する

コメントする (0件)
共感した! 1件)
amycinema

4.0つらい…

2024年12月29日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

重たい映画

今見るとコロナの始まり感あっていろんな業界にダメージがあったなぁと
ふてほどが面白かったので杏さんの映画見ました。

他の役者さん達、はまり役の役者さん達でした。

主人公である「あん」は、厳しい環境の中で生きる一人の女性で、暗い映画ではありますが、
絶望的な状況の中でも、
あんが出会った人々との交流が
わずかに希望を与えてくれます。

でも、暗い映画です

コメントする (0件)
共感した! 3件)
たもつ

4.0苦しい

2024年12月27日
スマートフォンから投稿

泣ける

悲しい

苦しい中地獄に落ちるかと思いきや一転。
あんは素直で真面目でお母さんが好きな女の子、それだけ苦しんでしまったんだなと思った

コメントする (0件)
共感した! 1件)
hotaru

4.0コロナ

2024年12月27日
iPhoneアプリから投稿

世代によっては受け止め方は異なるのかもしれないが、こちらは徐々に記憶から薄れていく。記憶に留め置くべきこと。今も問い続けなければならない。

コメントする (0件)
共感した! 2件)
Kj

4.5大変参考になりました!

2024年12月19日
Androidアプリから投稿

悲しい

 私は民生委員児童委員の主任児童委員をしています。市からの依頼で社会福祉協議会の社会福祉士の方と相談しながら、この作品のような境遇の母子家庭を毎月訪問しています。💦
 皆さん大変な思いで、生きています。毎月の定例会で悲しい報告を受けることがあります。(多くは孤独死)さ〜て、今日も家庭訪問してきます。はあ〜

コメントする (0件)
共感した! 4件)
shimajirou

4.0河合優実さんの演技に拍手

2024年12月17日
iPhoneアプリから投稿

小4で飢えからの万引き
12歳で母親から売春の斡旋
16歳で覚醒剤 と壮絶な暮らしをしてきた杏が
1人の警察官との出会いから
『普通の暮らし』をするべくその日1日を
大切に生きていく

小さな積み重ねから生まれたものは
『未来への希望』 『他者への信頼』
そして介護や子供の世話を通して、自分が誰かの助けとなる力をもっているという僅かな自信

それらが崩れ去った時の孤独や絶望

杏の痛みからなかなか私も抜け出せずにいました。

私は稲垣吾郎さんの役はどうもミスキャストに思えたかなぁ。真の正義感なのかスクープを狙った偽りの信頼関係なのか無表情な稲垣さんからは真意がはかりかねた。

コメントする (0件)
共感した! 2件)
猫柴

5.0自分ならどうする?考えさせられる

2024年12月16日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

知的

絶対観るべき心に刺さる作品。河合優実さんの熱演が光る。光りが見えたから余計に悲しくて切なくて。そして自分だったら何がして挙げられたんだろうと考えさせられた。

コメントする (0件)
共感した! 2件)
みほ

4.5最後実話だと思い出してからそれまでの健気さに涙

2024年11月30日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

2024年劇場鑑賞44本目 傑作 75点

正直、1年通して2024年一番期待していた作品かもしれない

そんくらい河合優実の独壇場をリアルタイムで堪能できることを心待ちにしていた作品である

結論、素晴らしい完成度のドキュメンタリー再現映像の様だった

家庭内での取っ組み合いにちゃぶ台返し、その雑多な空間と綺麗なぶつかり合いじゃない再現性、それを表情や腕っぷしにフォーカスを当てる様な撮り方でなく、あたかも現場にいわさせてしまった配達員が何もできずに硬直してただ側から見ているかの様な目線での映像

序盤の河合優実の虚に目の奥がくすみきっている眼差しと全身から漂う負のオーラが拭えない猫背など、苦悩が伺える等身に脱帽

そこから、出会いや機会に恵まれて(一理あるが)自分の人生を生き始める

おばあちゃん子で、母への憎しみの皮肉なのか助けになりたいと介護職に触れてみること、ひょんな出来事から預かった赤子の為に奮闘する姿、一刻と終わりへ向かう年配の方への注力から、これからを生きる新たな命の為に自分の必要性を見出し生き始める力強さと終始感じる彼女の心優しさ故に、最後に迎える悲劇が、彼女が構築してきた生き甲斐とか生まれてきた新たな心の糸が分断された様で、新しい自分と新しい命(赤子)の丁寧に生き始めた印を書き記した日記やアレルギー一覧を燃やし灰にし、抱きしめながら命を断つあのシーンの一部始終は今年ベストの喪失感と衝撃である

彼女は2021年公開の由宇子の天秤から認識し、当時から作品は勿論、彼女の存在感に映画ファンが飛躍を確信し、予定調和でドラマの躍進や今作の抜擢・怪演である

2025年1月公開予定であり、由宇子の天秤ぶりに瀧内公美との共演作、敵での成長した姿楽しみである

コメントする (0件)
共感した! 4件)
サスペンス西島

2.0救いのない物語

2024年11月25日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

鬱映画
実話に基づく作品というのがさらに気持ちをやるせなくさせる
そら、河合優実は主人公を好演。「不適切にもほどがある」での主人公の娘役での演技と同じく、これからがとても楽しみな俳優だと実感させられる
佐藤二朗は社会奉仕活動と下衆な性癖というアンビバレントな人物を演じて不思議なリアル感を醸し出してる
人間って、こんな面あるんだよなーって
あと、河井青葉という女優が毒母を激演!
憎らしくて、この人の出ている作品は観たくない!と思わせるほど
その一方で、稲垣吾郎はストーリー上の必然性も存在感も全く感じさせない薄演•••••

そして誰も幸せになれなかった

コメントする (0件)
共感した! 1件)
まー

4.0散らされた花、残された明日

2024年11月22日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

難しい

本作は、主人公の杏が置かれた過酷な現実を克明に描き出し、観る者の心を揺さぶる。もう一度観賞するのを躊躇するほどであり、あたかも作品の世界に腕を掴まれ、引きずり込まれるようであった。

作品を通して伝わってきたのは「社会問題に対して無関心でいることはできない」というメッセージである。幼少期からの虐待や薬物依存を乗り越え、仕事をこつこつとがんばり、夜間中学で学びに勤しんでいこうと励んだが、新型コロナウイルス感染拡大により、事実上、その道が断たれる。

作中、警察官の多々羅は杏に付き添い、区役所を訪れる。毒親からの虐待、経済的搾取から逃れ、負の連鎖から脱出すべく、その一歩として、職務経験のない杏が生活保護を申請するためである。

理解者たる多々羅が交渉を試みるも失敗。腹立たしいが「まだ若いから自力で何とかしろ」という具合で埒が明かない。その場に漂う冷ややかな空気こそが、社会全体が弱者を切り捨てているという現実を象徴している。

制度の網目からこぼれ落ちていく人々、そして、その現実を変えられない無力さに、多々羅は怒る。社会への深い悲しみと怒りを物語っている場面である。

本作の結末が示しているとおり、社会問題を解決しようとするのは実に難しい。また、そのために当事者が声をあげようとすることも容易ではない。

杏のケースでは、そもそもどうやって声をあげればよいのかわからない、声をあげたとしても、福祉の手が差し伸べられなかったり、行く手を阻む者(毒親など)が現れたりする。思い通りにいかないことの方がずっと多い。

だからと言って、当事者だけではどうすることもできないことはどうしようもないかというと、そうではない。つまり、映画は、単に娯楽を提供するだけでなく、社会問題に対する人々の意識を高め、行動を促す力を持っている。

なぜなら、映画が持つ共感力や想像力を刺激する力が、人々の心を動かすからである。ただただ現実に起きた出来事が悲惨だと伝えるのは刺激が強すぎるし、すんなりと受け入れられることは難しい。

しかし、このような形で映像化することが大切である。当事者が声をあげるだけでは動かなかった世論に対し、大きな影響をもって社会に訴えかけることも可能である。

「弱者と連帯する」と言うは易しであるが、具体的な行動として、ボランティア活動や寄付など、様々な選択肢がある。例えば、地域のフードバンクへの支援や、ホームレス支援団体へのボランティア参加、あるいは、貧困問題に取り組むNGOへの寄付など、一人ひとりができることはたくさんある。

しかし、まずは、自分自身が社会問題に関心を持つことが大切だ。映画を観る、ニュースを見る、本を読む、そして、周りの人々と意見交換をする。これらの小さな一歩が、大きな変化につながる可能性を秘めている。

社会問題の根底には、社会構造的な問題が横たわっている。私たちは、個人だけでなく、社会全体で問題解決に取り組む必要がある。そのためには、社会福祉制度の改善を求める署名活動に参加したり、政治家や行政に働きかけたりすることも重要だ。

市民社会は誰かがお膳立てしてくれたものに乗っかるだけでは完成しない。例えるならば、大きなパズルのようなものだ。一人ひとりがピースとなり、全体像を完成させていく。一人ひとりは微力であっても、それが合わされば大きな力となる。決して無力ではない。

コメントする (0件)
共感した! 2件)
Kohei

4.0起伏のない人生

2024年11月17日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

なんてないのだけれど、その出発点である出自は大きな影響を与える。
な〜んてことは頭で理解しているのだけれど、「理解しているだけでしょ、知らないでしょ」って迫ってきた。
ハッピーエンドに慣れすぎた私に棘が刺さってしまった。

コメントする 1件)
共感した! 8件)
ピッポ