「救いのないお話」あんのこと humanさんの映画レビュー(感想・評価)
救いのないお話
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救いのない、幸の薄い女性のお話です。
後味が悪い作品ですが、これが現実に起こっていることなのだと思うと映画で描かれる価値のあるものだと思いました。
この映画のポイントは河合優実さんと佐藤二朗さんの演技だと思います。主人公の杏は作品の中であまり喋らない、どちらかというと無口に近い女性です。しかし、間の取り方や息遣い、泣き声、動作など河合優実さんの非言語的な演技から杏の感情がひしひしと伝わってきます。アカデミー賞も納得です。佐藤二朗さんもいつものコメディを封印して、薬物依存者を支えたいという善人の部分と庇いきれない不祥事を犯してしまう悪人の部分を併せ持った複雑な人物を演じています。映画の終盤にある記者との面会のシーンの演技は鳥肌がたちました。
映画の中で杏が亡くなった後、杏に子どもを預けた母親が「杏は恩人だ」と言っていたのがやるせない気持ちになりました。その言葉を生きている杏が聞けていたら、もっと結末は違ったのかもしれないのに。そしてこれは、実在した女性についても言えることだと私は思います。彼女が亡くなった後、こうして彼女の人生が映画化され、多くの人が彼女の人生を重く受けとめています。彼女が生きている間に、彼女の夢が閉ざされる前にもっと何かが変わっていればと思うばかりです。過酷な人生を懸命に生きた女性のご冥福を心よりお祈りいたします。
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