「なにを目的に映画作品を観るべきか」あんのこと Japanese_Idiotさんの映画レビュー(感想・評価)
なにを目的に映画作品を観るべきか
今回Amazon Prime Videoで鑑賞しました。ビデオ・オン・デマンドかつ「見放題」の場合、映画館に足を運ぶのに比べ作品を視聴する敷居はぐっと低くなります。普段自分が映画館で鑑賞する作品の方向性や好みから少し外れて、冒険してみようという気持ちが芽生えるのです。
この作品はPrime Videoでの配信が始まったばかりということもあってトップにバナーが表示されていました。数行の概要欄によるとかなりダークなテーマで、かつ実話が下敷きになっているとのこと。私自身思い返せばごく平凡な人生を歩んできましたし、家庭も円満、これといった病気や不具合もありません。私のような人間が、このような現代のクライム・ストーリーを観る動機は、いわゆる怖いもの見たさにほかならない、自分とは全く異なる悲惨な人生や物語を覗き見てみたいという悪戯な欲求でしょう。そう思っていました。
東京の下町でしょうか、薄暗い早朝をゆっくりと歩く主人公(河合優実)のバックショット。ふと立ち止まり、眼球だけをギョロりと上に向けて視線の先を見つめます。映画が始まってものの1分ほどのシークエンスですが、この彼女のある意味病的な表情が彼女の闇を雄弁に物語っています。ここより作品本編となりますが時間は数年ほど巻き戻り、彼女のこれまでがスクリーンで語られていきます。お話として谷あり谷あり、また谷あり(笑)多少勇気づけられる場面もありはしますが、それはあくまで観客をなるべく深い谷底へ落とすための仕組みではないかと思うほど、総じて救われない悲惨な内容です。映画の後半には冒頭のシーンへと連れ戻され今の彼女の話が進んでいきます。主要な登場人物は多くありませんが、めいめいが明暗を抱えておりとても人間臭くかつ残酷です。そして誰一人救われず終幕します(子連れの親子は例外かも)
さて当方の冒頭の話に戻りますが、VODでは映画館での視聴と違い、いざとなれば視聴を停止することもできます。事実、私自身十数件の作品については食い散らかして放置しています。 この作品は暗くて救われないストーリーではありますが最後までガッツリ鑑賞致しました。それは観るものを引っ張り込む力がスクリーンにあり、監督の演出・俳優の演技が、最後まで見届けたら良いんじゃん?とでも言うかのようにひらりひらりと手招きをしていたから。正直、見終わっても何らの爽快感はありませんし、解決感もなくただただ「救われない人たちが、その通りに救われなかった」映画なのです。
自分にも答えはないのですが、悪戯心と申しましたのはあくまできっかけでありまして、その先にある目的とは違っているように思います。普段視聴しないようなタイプの映画を鑑賞することで自分の中に未萌芽の感受性を見つけて、自分の年輪を自身にしっかり刻めるようになる、そのための千本ノックの一本だったのかもしれません。
最後まで見て、後悔は無かったが、モヤモヤが消えず。千本ノック、の表現で心がぱぁぁーとスッキリ晴れあがりました。ありがとうございます。監督も俳優も素晴らしい映画でした。