「確かに〝生きようとしていた〟」あんのこと humさんの映画レビュー(感想・評価)
確かに〝生きようとしていた〟
〝積み上げたものを自分でくずしてしまったことへの自責の念… 〟
記者の問いに杏の思いをそんなふうに語った刑事
これは職務経験からの発言だったが、あの時の自身の思いにも重なるところがあったのだろう
しかし、リークされなければこんなことにもならなかったのにと、あの状況にいて自分本位な思考がみえる様子に苛立ちが込み上げた
その自覚のなさが人を傷つけ追いやるのにその熱弁はどこか勘違いしたヒーロー的で思わず嫌なため息が出る
鈍感なのか?
麻痺しているのか?
しらばっくれているのか?
杏を思うともうそのどれでも許せない
なぜなら
身勝手な母に振り回され、生きる上での選択肢もなく、自己肯定もできずに、諦めで生気を失った目をしていた杏の姿が頭によぎるから
そんな彼女がそっと心を開いたのは、光を掴ませようとしてくれた彼の人間性を信頼したのを目撃したから
その裏切りが〝なんとか信じてみたい世界〟をついに見失わせたのを感じたから
母や刑事が自分を守る為に誰かを犠牲にしている時、杏は誰かを守る為に自分を犠牲にしていた
必死に生き直そうとし、はじめて自分の居場所を感じ笑顔を見せるようになったのに…
見捨てられる痛みを知り尽くしているからハヤトを必死に守ったのに…
悪意の手をのばす大人達によってまた踏みにじられた杏
絶望した心はきっと本人もしらないうちに重いはずの命を紙切れのようにふわりと風にのせ無のなかへ舞わせた
コロナ禍もかぶる実話をベースにしたというこの物語に心を抉られる
そして、彼女がもういないことの取り返しのつかなさがぽかりとあいた穴をさらに広げていく
杏のように涙すらもう出ない
生きようとした杏を忘れたくないだけだ
追記1
刑事の自責は、かと言って改めるものではなく、都合の良い立場を(悪さをするのに)失うことへの自分自身の残念さに見えた。
記者に疑われた時、責めたり威圧してみせたのは自己中心性の境地だと思う。
母は言うまでもなく。
追記2
嘆いていては変わらないですね。
自分のまわりからよくみつめよくかんじとり冷静に動ける大人でありたいです。
修正、追記済み
共感&コメントありがとうございます。
学校にも行かされてない、周囲も無理解ばかり、世間と闘う武器が与えられてないんですね。反面、クスリや犯罪など足を掬うモノは溢れている、どうすれば? はっきり教えてあげないと、そう思いました。
最初の身勝手さという部分に共感します。
当事者の絶望を勝手な言葉で片付けようとしているとさえ思えました。裏で卑劣な事をしながら、彼女を救おうとしていたなら一番大事な事を教えていなかったのではないでしょうか。
コメントありがとうございました、嬉しいものですね。
立派な事とも恥ずかしい事だとも思わずに、出来る事を出来る範囲でやっているだけです。もちろん映画を観る時間も削らずに。
誠実なレヴュー心地好く読ませて頂いています。
コメント頂き、ありがとうございます!
今でも、あの大人たちの誰か一人でも…って、思ってしまいます。
ただ、現実には、自分が、その誰かひとりに慣れるのか!?と思ってしまったりもします。
でも、慣れるようにしなきゃ!!という気持ちを、この作品によって与えて貰えたことは確かです。
にしても、思い出すたびに、心がギュッとなります…。
コメントありがとうございました。
「生きようとしていた」というお言葉、秀逸ですね!まさしくその通りだなと思いました。
ところで多々羅という男についてですが、極端に言えばどんな人の心にも天使と悪魔が住み憑いており、状況やタイミングによってそのどちらかが顔を出す、という風に僕は解釈しております。いわゆる「良い人」の中にも微かに悪魔は居るし、「悪人」の中にも僅かばかりの天使は居るのだと。どちらが本当でも嘘でもなく、だから人間は複雑で難しく、矛盾する生き物なのだと痛感させられたりするのです。そういう悲劇的な要素が描かれた映画が個人的にはすごく好きで、例えば吉田監督の「ヒメアノ~ル」という作品も、ラストの凶悪犯の行動に思い切り心を揺さぶられてしまうのです。もし未鑑賞であればお勧め致します!
コメントいただきありがとうございました。
僕自身、多々羅の人間性がまだとらえきれていません。少数意見だと思いますが、本当にあのグループを私物化していたのかな?と。記事を売った女性は、隣にいた男性の風貌も含め「金目当て」っぽいし、ヨガのシーンの中でくだんの女性が親しげに話しているカットがありましたから、多々羅ははめられた???ただ、脇が甘いですけどね。杏があまりに気の毒すぎて、一番世話していた多々羅くらいは運のなかった善人だったと思いたいだけかも?ですが。
コメントありがとうございます。
いやいや、私も本音では、怒りの感情に溢れかえっておりますよ。
クールダウン。。努めてみたけど難しい。
毒母、タタラは勿論、祖母だって口では優しい事を言っていたけれど、結局杏ちゃんを守ってくれなかった。「お前の娘だろ!」毒母と刺し違えてでも杏ちゃんを解放して欲しかった。結局自分の保身のため、何もしなかった祖母の罪も重いですよ。
ハヤト母も自分勝手で親の自覚なし、腹が立って仕方なかったし、記者もタタラの悪事を暴くのなら杏ちゃんのフォローは絶対すべきだった!ヘナヘナと座り込んだってもう遅いんだよ!!
みんな同罪。
"彼女がもういないことの取り返しのつかなさ"
強烈に心に刺さったフレーズでした。
コメントありがとうございます。
杏が頼れる人が多々羅以外にもいればよかったんですけどね。介護施設の施設長さんは理解ありそうでしたが、仕事を辞めた後個人的に相談できる程の関係性ではなかったようで。
母親は酷かったですが、彼女が毒親になったことにもそれなりの経緯があるのでしょう。
最近読んだ本に『日本人はみんな〝貧乏くさくなった』と書いてありました。
もちろんお金の有無のこととは関係なく、精神性、根性の問題。
その立場にいれば手に入るものならなんでも手に入れる。手に入れなきゃ損!
そういう人が増えました。役員になればセクハラできる(保険会社の社長)、官僚になれば忖度すれば出世できる(森友事件の佐川)、政治家になればパーティやらなんやらで私腹を肥やせる、お客様なんだから神様のように扱え(カスハラ)。
あの刑事もまた…