劇場公開日 2024年7月26日

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「不安と自信」めくらやなぎと眠る女 サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5不安と自信

2024年8月8日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

難しい

幸せ

いかにも、村上春樹な作品。鑑賞後に知ったけど、どうやら6つの短編から作られた映画らしく、それもあってか統一感のないごちゃっとした物語になっている。伝えたいメッセージが一致していればいいのだけど、こうも方向性・テイストの違う作品を並行して進められると、全体的なまとまりが悪く、なんとも言えない微妙な気持ちになってしまう。地震というテーマだけで一括りにされてるけど、正直なところ分けて見たかった。

とはいっても、小村の話は「ドライブ・マイ・カー」の家福悠介とほぼ同じ境遇であり、ひたすら喪失感に明け暮れる人物であるため、ハッキリ言って新鮮味も面白味にも欠けている。性に走っちゃうのもこの人の悪い癖。そもそも、フランス人から見た日本人があまりに不細工過ぎて、好きになれるキャラクターがかなり限られていた、というのも大きい。

村上春樹というと、社会を斜めから見下ろすようなちょっぴり偏った考えを持つ人であるため、個人的にはあまり好きな小説家ではなく、むしろかなり苦手。本作においても、男は弱くて情けなく女々しいし、逆に女は超が付くほど積極的で我が強い、といった男女に格差をもたらす描き方をしており、そのため小村とその周辺の話はどうもいい気持ちにはなれない。随所でいいところはあるけど、あまりにゆったりとしていて退屈に感じてしまった。

一方、片桐のエピソードはかなり面白く、苦手な村上春樹作品でありながら、このパートに関しては相当好きだった。ポスターでは本作の目玉のように大々的に写されているかえるくん。入プレだってかえるくん。前面に出してくるだけあって、非常に魅力的かつ楽しいキャラクターで、彼自信がストーリーテラーとして物語を展開していく、言わば「笑ゥせぇるすまん」的な単独作品が見てみたいなとまで思えた。
塚本晋也×古舘寛治の相性が見事で、2人の不思議な会話は思わず聞き入ってしまう。結局何がなんなんだ、何が言いたいんだと感じざるを得ないものの、まるで「君たちはどう生きるか」の眞人とアオサギのような独特な関係性には、なぜだかすごく引き込まれていった。かえるくんの登場シーンは本作でいちばんテンションが上がる🐸

人に勧められるような映画では無いものの、全然嫌いではなく、なんならちょっとクセになるような趣深い映画ではあった。導入もいい。雰囲気もいい。アニメにしたことで良さが大いに引き出されている。ほぼほぼかえるくんに捧げる点数だけど、村上春樹作品が自分にハマるとは思っていなかったため、なんだか嬉しかった。にしても、〈めくらやなぎ〉とかいう造語、よく思いつくよなぁ。あと、地震の映画見たあとに地震はあまりにも怖い。ミミズくん怒らないで🪱

サプライズ