「役者の生成変化の過程を捉えた稀有な作品」王国(あるいはその家について) 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
役者の生成変化の過程を捉えた稀有な作品
普段見ている映画は、役になりきった俳優が画面に映っている。しかし、元々は役者たちは個別の人間であり、映画の役の人間とは別人だ。しかし、優れた映画は観客にそう思わせない、これはこういう人物なんだと思わせる説得力がある。
しかし、ふと不思議に思うのは、俳優も最初から作品の中の人物として存在していたわけではない、彼ら・彼女らはどのように役に変身していくのか、ということ。
この映画は、その過程を描く作品だ。映されているのはリハーサルの光景だ。何度も同じシーンを反復しながら、「俳優」だった者たちが映画の中の「人物」になっていく過程がスリリングに描かれていく。
何度も同じシーンを見せられるのは苦痛だと思う人もいるかもしれないが、脚本上で同じシーン・同じセリフであっても俳優の演技はひとつとして同じではない。メタモルフォーゼの過程というか、徐々に変化しているのが確かにわかる。同じセリフ、同じシーンだからこそ、細かい差異がわかりやすく浮かび上がる。
これは「生成変化」の映画なんだろう。変化そのものを捉えるのは実に難しいことで、時間芸術ならではのアプローチでそれを捉えた稀有な作品だ。
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