「一月の声に歓びを刻め、ひたすらに美しい」一月の声に歓びを刻め YOKOさんの映画レビュー(感想・評価)
一月の声に歓びを刻め、ひたすらに美しい
人が語るはずの言葉を託されたモノや音がとても雄弁で、まずはそれらに魅入られてしまった。
それは雪を踏みしめる音から始まり、形の違う三つの窓の一日のうつろい、自然、料理だったり……風や、太鼓、雑踏の音だったり。
それを最も効果的な画角で、時には真上から、時には手元から撮られ、それだけで時間の経過や、人の心情が伝わってくる。
音も然り。
なんと丁寧な仕事だろう。
と、前作『RED』の感想にも書いた記憶がある。今回はそれが卓越した領域に至った感じがした。
ことごとのディテールの織り重ねがとてもとても美しい。それらが観たくて、もう一度映画館に足を運んだ。
そしてこの作品は三島監督の過去の経験をベースに作られている。その過去になんと丁寧に向き合ったのだろうと思う。
人物の痛みや喪失が、観ている自分の奥にある痛みに進入し触れそうな時、思わずたじろいでしまうほどの、率直で大きな痛みだった。だからこそ最終章に救われる。生きていこうとする選択の力を感じた。
自分をベースにした作品ながら、物語としてとてもよく練り上げられている。差し挟まれるエピソードによって、予想を裏切って物語が運ばれていく。うねる波のようなダイナミックなリズムだった。傑作だ。
この作品、世界のどこまでも飛んでいってほしい。
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