「自らの裡に響く声とは…」一月の声に歓びを刻め hard-boiled@Peaceful_kingさんの映画レビュー(感想・評価)
自らの裡に響く声とは…
静寂に包まれた湖畔の雪原を息絶えだえに歩む足音。荒れ海を渡り吹きつける風を弾き破り響く太鼓の音。街の雑踏にかき消されない足音。航海の始まりと終着。三つのモチーフが三つの小さな物語を「生きること」「罪」とは…と云う大いなる物語を綴る映画と感じました。
洞爺湖畔に独り暮らす子を亡くした親の掬えなかったことへの罪。母の延命措置を止める決断をすることで死をもたらした父と娘への罪。幼い頃に性的被害を受けてしまいトラウマを抱え続けることへの罪。そうした罪がまるで『虐殺器官』の主人公の語り様に開かれたフィクションへ変奏し昇華されてゆく物語とも感じます。
私は三島由紀子監督というと文芸を得手とする職人監督だったのですけれど、自主制作の本作では作り手としての文学に触れた感覚に。劇場で映画を観ることの愉しみを増大させる光と音の演出は勿論、ロケーションと俳優の身体が奏でる奇跡的一瞬…謂わばドキュメントを総てに見せながら映画によって救われた後に創る者となったことのメタ語りも著している作品だった様にも感じられたからです。そういった作品が私の好みだからかもわかりませんけどねっ(笑)
さて『一月の声に歓びを刻め』のタイトル通りに、年を越し再び始まりを迎える一年に人生を重ねその再生と云う意が個人が胸の裡に閉じ込めてしまった無数の罪を開くことで自らを再生してゆく姿こそが「美しさ」へと変奏されて永遠なる掬いとなり、生きてゆくことへのエールとなって欲しい…との願いや祈りとも言える何かになり結末に前田敦子さん演じるレイコの歌となって響くのでした。
さて…あなたはどの様に感じたのでしょうか。
私はあなたが生きて私たちにあなたの物語を届けてくれて、ありがとう。と感謝の気持ちでいっぱいです。