劇場公開日 2024年5月24日

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「何を述べているのか理解しがたい」劇場版 おいしい給食 Road to イカメシ yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

1.5何を述べているのか理解しがたい

2024年5月24日
PCから投稿

今年194本目(合計1,286本目/今月(2024年5月度)28本目)。
(前の作品 「PS1 黄金の河」→この作品「劇場版 おいしい給食 Road to イカメシ」→次の作品「」

 学校給食をテーマにしたコメディ映画です。

 まぁ、そこまでは理解しうるし、この映画がややギャグよりに行くのもある程度了知はできるのですが、ここまで無茶苦茶だとどうなのか…といったところです。

 資格持ちは何を言っているのか理解しがたく、どういう目線で見ればよいのかもわからない作品で困ったところです。

 また、後述しますが、映画の最後に「食べ物などの起源などには諸説あります」と出るところ、その対象が特殊なものであり(後述)、実質一つしかないので、この点は書いておくべきだったのではなかろうか、と思います。

 ギャグ映画オンリーという観点だけで見ればまだ推せますが、ちょっと私には向いていなかったといったところです。

 なお、なぜか設定が1989年となっていますが、法律解釈上特にそれにこだわる理由がないので(その間に民法は5回以上変わっていて、当時の民法等は引っ張ってこられない)、この点は度外視します(どう解釈してもおかしいのは明確なので)。

 採点は以下の通り、1.4を1.5まで切り上げたものです。
ここまで厳しいのも個人的には珍しいのですが、資格持ちを解釈上ごまかすことは絶対にできませんので…。

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 (減点0.8/通達に関する考察が雑すぎる)

 通達は上級行政庁が下級行政庁に出すもので国民はそれに拘束されません(墓地埋葬事件)。町長の下級行政庁は小学校ではないので(=小学校の上級行政庁は町長ではない)、何を述べているのか不明です。最高裁判例の見解と異なるものを述べるものは減点幅が極端に大きいです。

 (減点0.8/市長と町長の設定根拠が雑すぎる)

 上記、および以下の減点対象と関係しますが、市長(函館市長。映画内では市立と出るため)と町長の間には上下関係がなく(地方自治法上、市が上だとか、市が(無関係の)町に干渉できるという規定がない)、どのような理由で「函館市立」の学校に町長が関与できるのか、地方自治法上の根拠を欠きます。

 (減点0.7/無効な行政行為と行政事件訴訟法、住民訴訟ほか)

 税金の無駄遣いとしかいいようがなく、地方自治法に基づく住民訴訟にしかなっていませんし、一見誰の目にみても明らかな無効な行政行為に対しても無効確認訴訟は提訴可能なので(判例)、映画の描写はかなり変です(無効確認訴訟は出訴期間の制限がないので、いつまででも争い得ます)。

 (減点0.5/「被告」の使い方)

 刑事事件では(「検察官」という表現からわかる)、「被告人」です(民事事件では「被告」/刑事訴訟法、民事訴訟法(行政事件訴訟法は民事訴訟法を準用しているので注意))。

 (※) この部分は明確に配慮不足。たった一字の違いですが、成年年齢の引き下げにともなって小中学校で法教育が当たり前になった今日、弁護士会や行政書士会などが、刑事民事ほかでパッケージ化された模擬裁判パッケージ(テンプレストーリー)を提供することはあり(←行政書士はこれらが試験範囲に含まれるわけではないが、一般論として小中学生の法教育や模擬裁判のように論点を絞った「テンプレパターン」ならストーリーを作りえます。むしろ、行政事件訴訟法をテーマにした題材を作っても当事者に理解しがたい。高校生でギリギリか)、これら「すら」使っていないのか…という何がしたいの?状態になっています(そんなところで弁護士会や行政書士会の協力をケチっても仕方がない)。

 (減点0.5/カレーがどうこうの模擬裁判)

 日本では、法の解釈に基づいて司法が介入できる事件しか扱えません(判例、裁判所法)。つまり、完全に架空の事件や(ここでいう「架空の事件」は、学校の模擬裁判という意味ではなく、模擬裁判の体裁をとっていても、その題材が「象が好きかキリンが好きか」というような事件と言えないもの、という意味)、法をどう解釈しても個人の好みがどうこう、「神は存在するか」といったような「法の適用で決着のつけられない争い」は裁判所では争えません。

 (減点0.3/ザンギに関しての説明不足)

 これが「起源には諸説あります」とある中で何も書かれていない部分です。
一般的に北海道の文化とされますが、実は、愛媛県の東予地方(今治、新居浜など)にも同じ文化があります。これも、明治維新後の北海道の人々が持ち込んだという説(造船、別子銅山などの労働現場において)、また、現在の韓国・北朝鮮、あるいは中国の出稼ぎ者の文化であるなど諸説あります(そもそも、どちらが発祥か、あるいはたまたま同じ名前で呼ばれるだけでまったく別文化という点も決着がついていません(参考:農林水産省))。
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 (補足/5/25) これだけ書くと、沸点が低いのかなぁとか、あらさがししているのかな…と思われるかもしれません。確かに法律系資格持ちはある程度は厳しくはみますが、個々の解釈不足などは仕方ないので採点上考慮はしています。それは有名監督さんの作品も例外ではなく、どなただったかの「怪物」においても「通達の用法ミス」は指摘しています。

 この映画の「怒りのわく点」は、これらが個々個々多くありすぎて、チェックすらしてないんじゃないかな状態になっている点です。極論、法学部の2~3回生の子でもこの突っ込みはしてくるんじゃないかという「個々個々は小さいのだが数が多すぎる」状態で、「さすがにそれはやめてよ」という部分、換言すれば「何のチェックもしてない」という点に怒りがわいているわけです。そして「個々のチェックもしていない」点を示すためにこれだけ長文を書くとかえってまた私が「めんどうな人だなぁ」みたいに思われるかもしれませんが、もうそれは「職業病」みたいなもの(私は資格持ちではありますが登録はしていません)だと思ってあきらめています。

yukispica
セイコウウドクさんのコメント
2024年5月31日

コメディ映画に法律を持ち出すのは野暮では。裁判制度に関心を持たせるだけでも模擬裁判は有りだと思います。そうしないと、この国から裁判官も検察官も弁護士もいなくなりますよ。資格を持っていたとしても。

セイコウウドク