「お金の引力に軍事境界線は関係ない! お気楽&ドタバタ南北コメディ」宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
お金の引力に軍事境界線は関係ない! お気楽&ドタバタ南北コメディ
悪い人が出てこず、安心してみられるほのぼのコメディ。
やったことないのでピンとこなかったんだけど、原題「6/45」は45個の数字から6つの数字を選ぶロトくじのことなんですね。
韓国のとある居酒屋に打ち捨てられたロトくじが、風に飛ばされいきなりありえへん旅をして、まず韓国軍の兵士チョヌの手元にたどりつく。それが57億ウォン(6億円)の当たりくじと知ったチョヌが持ち歩いてうきうきしていると、くじはさらに風に飛ばされ軍事境界線の向こうへ……。
なんだかんだ南側の情報も知るツテがある北朝鮮軍兵士たち、高額当選くじを拾ったことがわかると、韓国兵士に換金してもらった上で分け前を得ようと、共同給水区域で顔を突き合わせて取引を始める。
軍事境界線を挟んだ南北の兵士たちという緊迫した空気を連想させる設定だからこそ、登場人物たちの能天気さや大金をめぐる必死さが余計可笑しい。話の進み方もギャグもテンポがよく、心地よく笑える。
日本人の私がみていても十分面白いが、韓国の人たちが見たら「北と南の違いあるある」みたいなローカルネタがもっとツボにはまるのだろう。
松尾スズキの字幕監修の効果はそこかしこで感じた。言葉遊び的な台詞や、ちょっと気の抜けた感じのやり取りが、字幕の日本語でも面白かったし、俳優の演技のノリにも上手いこと合っていた。
登場人物はみんな愛嬌があって憎めないが、北朝鮮の女性兵士ヨニがいいキャラだ。対南の宣伝放送では容赦のない毒舌。そして男性の軍人をボコる、投げる! でもかわいい。
57億ウォンの山分けのために、最初は緊張感を持ちつつ対峙し、やがて育った国の政治体制の違いを超えて、気心の知れた関係になってゆく南北の兵士たち。こっそり人質交換したのち、自国の地雷を踏んだ韓国軍兵士を助けて上官に激賞されてしまうヨンホ、北朝鮮で家畜を大繁殖させて幹部候補生に選ばれてしまうチョヌが微笑ましい。
ヨンホが、娯楽の少ない母国でドイツ語映画の台詞を暗記していたのが伏線だったとは。回収のされ方が斜め上で大笑い。
宣伝放送の存在や非武装地帯の地雷など、実際の軍事境界線周辺の様子を思わせる描写は興味深かった。
基本的にお気楽面白ファンタジーなのだが、国同士がいがみ合っていても、個人レベルでは人間どうしとして助け合いや相互理解ができるのでは、という微かな希望を、そこに見出したくなってしまう。
本作がベトナムでヒットしたのは、現在進行形か否かの違いはあれ、同じ民族の国がふたつに分断されるという歴史の共通点が共感を呼んだからかもしれない。
大団円のラストはみんな幸せでほっこり、別れにちょっとしんみり。このしんみりの匙加減がまた上手い。