「フランス版中村うさぎの映画かな」ラ・メゾン 小説家と娼婦 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
フランス版中村うさぎの映画かな
2024年一発目は、昨年末に公開になっていた「ラ・メゾン 小説家と娼婦」を観に行きました。
本作は、主人公である女性作家のエマが娼婦について書こうと思いたち、フランスから移住したドイツ・ベルリンの娼館に身を置き、娼婦として働くというお話でした。娼館におけるセックスシーンも全く隠すことはないもので、当然のR18+指定でしたが、一番驚くのは、原作の小説はエマ・ベッケルという実在の女性作家が、実際に娼館に2年間潜入して体験したことを小説化した作品であるということ。流石は「エマニエル夫人」を生み出したフランスと思ったものの、よくよく考えると、かつて日本の女性作家である中村うさぎも、「叶恭子」という源氏名でデリヘルで働き、その体験を「私という病」において発表していました。エマ・ベッケルと中村うさぎのそれぞれの動機は異なるものの、女性作家が娼婦として働いた経験を文章にするという点では共通しており、何となく互いに惹かれ合うことがある日仏両国の文化の一面に、通底するものがあるのかしらと思ったところです。
肝心の本作の内容ですが、公式サイトなどには、「女性の自由とセクシャリティの解放を扇動する今年最も挑発的な一作」なんていう扇動的な謳い文句が書いてありましたが、そこまで扇動的だったようには思えませんでした。勿論普段では伺い知れない娼婦たちの本音や、そこで働く事情が描かれており、「なるほど」と首肯することはある訳ですが、そのことと「女性の自由とセクシャリティの解放」とは、ちょっと別の話ではないかなと思ったところです。
ただ、ドイツでは日本と違って売春そのものは合法のようで(日本でもいわゆる「風俗」全般は違法ではないけど)、だからこそなのか、娼婦たちも「セックスワーカー」としての地位を法的に認めている点で、日本の事情とは大きく異なるようです。日本の場合、1958年に施行された売春防止法により、表向きに売春は禁止されました。これにより、伝統ある吉原遊郭なども解体され、女性は”解放”された「はず」でした。ところが実際には、組織的な売春行為が日本の至る所で行われているのは周知の事実。
一方ドイツでは、日本とは逆に、元々法的に禁止されていた売春が、2002年に一定の条件下で解禁されたというのだから、これは驚くべきところ。ただこの辺りの経緯を調べて行くと、娼婦の労働環境や衛生環境などを向上させることが条件とされることや、彼女たちを搾取することは当然に禁止されているなど、「売春」というものの善悪の判断以前に、現に存在している娼婦という職業人の立場を保護しようという行政サイドの取り組みの結果としての合法化であり、建前では禁止しているものの、実際は見て見ぬふりをしている日本の行政のあり方とは、随分と違うんだなと思ったところです。だから日本が悪くて、ドイツが素晴らしいと一概に言える訳ではありませんが、ホストに嵌った女性が風呂に沈んでまで貢いでしまうと言った社会問題が起きている日本の現状を見ると、日本の現状を100%肯定する訳には行かないものと思ったところです。
かなり本作の内容と離れて脱線してしまいましたが、主人公にして原作者であるエマは、間違いなく自分の意思で娼婦をしており、そうした自分に疑問を持ちつつも誇りを持って仕事をしていたようにも見受けられ、そういう意味では看板通り「女性の自由」を描いた作品だっとは言えるかと思います。
そんな訳で、本作の評価は★3とします。