「潜入した割には浅く、不純な動機と恵まれた背景では得られるものも得られない」ラ・メゾン 小説家と娼婦 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
潜入した割には浅く、不純な動機と恵まれた背景では得られるものも得られない
2024.1.3 字幕 T・JOY京都
2022年のフランス&ベルギー映画(89分、R18+)
原作はエマ・ベッケルの小説『La Maison(2019年)』
高級娼館の取材のために娼婦になった小説家を描くヒューマンドラマ
監督はアンヌ・ボンヌフォン
脚本はアンヌ・ボンヌフォン&ディア・スティーム
物語の舞台はドイツのベルリン
フランス人作家のエマ(アナ・ジラルド)は、作家仲間の友人ステファン(ヤニック・レニエ)と関係を持っていた
ステファンは既婚者だったが構うことなく、そんな姉を見て、妹のマドレーヌ(ジーナ・ヒメネス)は呆れて果てていた
ある日、彼女は3作目のネタを考えていたところ、何を思ったのか「娼婦の実情」を描こうと考え、自らが娼婦となって高級娼館で働くことになった
ステファンもマドレーヌもエマを止めるものの聞き入れず、ステファンには「セックス好きと娼婦は違う」とまで言われてしまう
エマが最初に訪れたのは「カルセール」という娼館だったが、本番を強要する客から逃げる形で辞めてしまう
それから6ヶ月後、エマは「ラ・メゾン」という娼館に入り、そこで客の応対をすることになった
物語は、実録系ということだが、かなりの脚色が入っている印象
最初の娼館「カルーセル」の暴力的な感じは、後半の「ラ・メゾン」との対比になっている
基本的に特殊性癖の御仁が登場し、アブノーマルなセックスシーンが満載になっている
3P、SM、レズ、後ろはNGで追い出されていた客もいた
中盤から「良い感じの青年イアン(ルーカス・イングライダー)」が登場し、彼との関係は大丈夫なのかが命題になっていて、娼婦に一度でもなった人は普通の恋愛や結婚へのハードルが上がるということが描かれている
この辺りは「やる前からわかってるでしょ」という感じで、妹やステファンの「よせばいいのに」を理解せぬまま、ただ溺れていくだけのように思えた
映画は、R18+なので「モザイクなしに竿も登場する」し、「見えてるんじゃないの?」というシーンもあったりする
商売セックスなので、ほぼAVのような感じになっているが、それを大画面で大人数で観るのは精神的にキツいものがあった
もう少し秘匿の部分があってもと思うものの、小説の内容も赤裸々なものなので、それを再現したのだと思っておいた方が幸せなのかもしれません
いずれにせよ、想定内の感情をエマが感じるという内容になっていて、娼婦目線で画期的な掘り下げがあるかと言えば無い方だと思う
異性でも想像がつく感じで、ステファンの言葉に集約されているのだが、エマとしては「体験しないと書けない」というハードルがあったので、あえて突入したのかなと思う
小説家が潜入して体験談を書くとなれば画期的だが、セックスワーカーの実態を描くのなら取材した方がリアルであると思う
エマ自身がセックスワーカーになる理由が界隈的には「不純」にあたるので、その純度が低い分、感じることも浅いと思う
そう言った意味において、取材対象の誰かが書いた方が説得力があるのだが、それが出版される可能性は極めてゼロに近いと思う
知名度を有して潜入しても、結局のところ、誰もが知りたがるものではないので、単純にステファンとの情事じゃ物足りないだけなのかなあと思ってしまった