年少日記のレビュー・感想・評価
全1件を表示
少年は、自分の行動の意味を理解し、未来永劫その業に囚われ続けていく
2025.6.10 字幕 アップリンク京都
2023年の香港映画(95分、PG12)
無記名の遺書発見を機に過去に想いを馳せる中学教師を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本はニック・チェク
原題は『年少日記』で「少年時代の日記」、英題は『Time Still Turns the Page』で直訳すると「時はページをめくり続ける」と言う意味
物語の舞台は、香港都市部の旺角近辺
羅福堂中学校の3年生の担任を務めるチャン先生(ロー・ジュンイップ、若年期:カーティス・ホー)は、声優の妻・ラム(ハンナ・チャン、若年期:ナンシー・クワイ)と結婚していたが、今ではその関係は冷え、離婚届を突きつけられる始末だった
彼の高校は進学校で、大学入試を控え、最後の試験が迫っていた
そんな折、学校のゴミ箱から「生徒が書いた遺書」のようなものが見つかった
チャン先生、校長(ローレンス・ラウ)、副校長(ジョーイ・レオン)、スクールカウンセラーのハーさん(ルナ・チャン)たちは協議に入り、「信頼できる生徒に話して探りを入れること」になった
チャン先生とハーさんはクラス委員長のガーイー(サブリナ・ンピン)に遺書の話をすると、「女生徒とは限らないのでは?」と言われてしまう
そこでチャン先生とハーさんは、しらみつぶしに生徒たちに聞き取り調査を行うのだが、一向に有力な情報は得られなかった
だが、チャン先生は遺書に書かれた言葉から、かつて同じ言葉を目にしたことを思い出していた
映画は、これ以上のあらすじを詳細に書くとネタバレになってしまう繊細なもので、その部分を隠してレビューを続けていきたいと思う
チャン先生が押し入れから見つけた日記にも同じような文言があり、書き手が随分と長い間、苦しんでいた
その言葉と同時に小学校時代のことを思い出すのだが、彼が覚えているのは、父・フーチェン(ロナルド・チェン)のスパルタ教育と、それに何も言えない母・ヘイディ(ローザ・マリア・ベラスコ)のことだった
父は勉強やピアノがうまくできないと体罰を加え、好きだったピアノの先生(ジェシカ・チャン)もあっさりとクビにしてしまう
成績が上がればお小遣いも増えるものの、得手不得手があって、思うようにはいかない
そんなことを思い出しながら、「優しい先生になれる」と言うピアノの先生の言葉を思い出していた
物語は、競争社会の現代における若者たちの孤独を取り扱っていて、特に少年期には「自己防衛のために周囲をシャットダウンする」と言う反応が起きる
チャン先生はそんな過去に想いを馳せ、そこから結婚に至りながらも、親にはなれない自分を責めていく
夫婦の仲が拗れているのは、幼少期に何があったかを話せないからであり、チャン先生はその日記の続きに自分の言葉を綴ることになった
それを読んだ妻が何を思うかはわからないが、話せたことで何かが変わるのではないかと感じた
映画では、文字による告白(きっかけ)と対話による深掘りというものが描かれている
遺書も日記も文字なのだが、その後、対話に続くかはわからない
少年が書いたものは対話につながらず、生徒が書いたものは対話へとつながっていく
チャン先生は「遺書を書いた生徒からのメッセージ」に対して、このまま「メッセージで続けるか、会って話すか」を生徒に委ねる
そうして、会って話すことになるのだが、このシーンでは生徒の肩に手を当てて、そっと寄り添っている様子が描かれていた
そのシーンはピアノの先生との時間を想起させるものであり、対話の先にある「ぬくもり」こそが孤独を癒す鍵となっている
クラス委員長が別れ際にハグをするのも同じで、血の通った理解者の体温というものは孤独を癒す効果を持っている
少年がそれを感じたのはピアノの先生だけで、彼はずっと「ぬいぐるみを通じて自分の体温だけ」を感じていきた
その辛さがわかるのは、同じようにぬいぐるみと対話をした経験があるラムではなく、そのぬくもりを拒絶した者だけであると言える
そう言った意味において、本作には何気ないシーンに多くの意味があると感じた
いずれにせよ、父との最期の対話も印象的で、朦朧とする父はチャン先生を別人(少年)と感じて接していた
そこには彼なりの後悔があり、彼の秘書ゾーイ(レイチェル・レオン)から聞かされた「カセットテープのピアノの音と父の反応」は残酷なようでいて、チャン先生の救いにもなっている
自分が愛されていたかどうかよりも、彼が愛されていたのかが気になっていて、当初は家族全員が彼を「ないもの」と思い込もうとしてきた
でも、そう言ったことはできるものではなく、チャン先生には「別人の遺書」というかたちで過去に引き寄せられるという因果を持っていた
それが起こったのは「中絶を願ったチャン先生」の心だと思うのだが、それを踏まえると「あの遺書は生まれることを許されていないチャン先生の子どもの声」のようにも思えてしまう
同じ過ちを何度も繰り返さないためにも、天国にいる彼が手を差し伸べたようにも思えるので、これで関係が修復されるのならば意味はあったのかな、と感じた
全1件を表示
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。