「ワイズマンはやっぱり面白いけれど、」至福のレストラン 三つ星トロワグロ La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
ワイズマンはやっぱり面白いけれど、
ターゲットとなる場所を定めたら、そこに働く人々・集まる人々・関わる人々・生じた出来事すべてを記録し尽くそうとするドキュメンタリーの巨匠フレデリック・ワイズマンの今回の舞台は、ミシュランの三ツ星を55年間守り続けるフランスの名レストラン・トロワグロです。そして、このレストランの裏も表も描き尽くすので4時間もの作品になってしまったというのはいつものワイズマン流。更に、大きな出来事が起きる訳でもないのに、「へぇ~」とか「ほぉ~」と言いながらついつい観てしまうのもやはりワイズマンでした。
お客さんそれぞれに向けたメニューを一つ一つ検討する真剣さや、新しい料理についてシェフがあれこれ議論する様や、素材それぞれの生産者にまで訪ねて吟味し、或いは自分達で生産する職人気質などは確かに興味深いのですが、僕は、
「へぇ~、フランス料理ではマトウダイがそんなに頻繁に用いられるのかぁ」
「カエル料理もお馴染みなんだなぁ」
「『活き締め』『紫蘇』などの言葉はそのまま『イキジメ』『シソ』の日本語のまま通じるのか」
「醤油や味噌も使ってるよぉ」
「肉は食べずに魚だけ食べる『ペスカタリアン』という人々が居るのかぁ」
「5千ユーロ(80万円)のワインなんてあるの?」
なんてことに事に感心し、アッと言う間の4時間でした。93歳になってもワイズマンはやっぱり面白いなぁ。
・・と締めたかったのですが、たった一つ気になる事。これまでのワイズマンの取り上げたテーマ、ボストン市庁舎でも、ニューヨーク公共図書館でも、ジャクソンハイツでも、英国ナショナルギャラリーでも、映画を観たら「一度行ってみたいな」という気になったものでした。しかし、今回は「トロアグロに行こう」とは思えませんでした。それは、このレストランが結局は「大金持ちの社交の場」に見えたからです。8万円近くするコース、シングルでも5万円近くするホテルには気後れして近づけそうにありません。ワイズマンにとってはいつも通り「興味ある場所にカメラを向けた」に過ぎないのかも知れませんが、今回はなぜこんな金ピカな所だったのでしょう。