「社会性を一切排したピュアな作品」至福のレストラン 三つ星トロワグロ エロくそチキン2さんの映画レビュー(感想・評価)
社会性を一切排したピュアな作品
ジャンルは違えどタルコフスキーやアンゲロプロスと並び称したくなるドキュメンタリーの巨星フレデリック・ワイズマン‼︎
思えば、、、
2017年(日本では2019年公開)の「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」は、図書館の持つ機能の多様性と存在意義を知らしめるだけでなく、アメリカの近代史、人種問題、格差社会、教育問題など雑多な内容に触れ、アメリカ社会そのもの、その過去、現在、そして未来までを俯瞰しようとする破格の傑作だった。
2020年(日本では2021年公開)の「ボストン市庁舎」は、市役所や公共機関がもつ様々な機能を提示するとともに、高齢者、ホームレス、貧困、再開発、人種差別など、山積みの問題に奮闘する市長マーティ・ウォルシュと市役所職員をとらえた。ボストンの市政を描きながら、相容れない州政、国政、そして「反トランプ」までもがくっきり見えてくる凄まじい構造だった。
そう、こんなとんでもないスケール感がワイズマンだ。
しかし今作は、、、
社会性を一切排したピュアな作品だった。親子3代にわたりミシュランの三つ星を55年間維持しているというフレンチレストラン「トロワグロ」の秘密にミクロの視点で迫った。
メニューの考案、調理風景、食事風景をはじめ、食材を調達する市場、農園、牧場、チーズ工場などを淡々と撮った。
食材と向き合い黙々と調理する厨房の静寂に愕然とする。観る我々はトログロワの三つ星が必然であることを知る。
そう、ここには前2作にあった激しい感動とはまったく異なる静かな感動が在る。幸せな気分に浸って帰路についた。
にしてもワイズマン。今は亡き両親と同じ1930年生まれ、94歳のモンスター。次は何処へ?