劇場公開日 2025年2月28日

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「judoと政治」TATAMI 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

2.5 judoと政治

2025年10月30日
PCから投稿

アメリカイギリスイスラエルジョージア合作映画で、イスラエル人のGuy Nattivと聖地には蜘蛛が巣を張る(2022)で主役を演じたイラン人女優のザーラアミルエブラヒミが共同監督をつとめており、イスラエル人とイラン人がはじめて共同監督した映画とのことでした。

イランの女子柔道選手がイランではイスラエルとの公式対戦が禁止されていることから、試合を棄権しろと命じられそれに反抗したことで監督と共にイランを追われる(フランスへ亡命する)という話でした。
白黒で始まる雰囲気はとてもいいです。たとえが適切か自信はありませんがベルイマンみたいです。
しかし柔道の試合はリアリティを欠き実況は野球のようです。選手は合間にスマホで家族と連絡をとったりしています。監督と選手が対立するシナリオも妙な感じでした。

メッセージは直截的で要はイランはひどいですと主張する映画になっていて、むろんかれらの陥った状況は理不尽ですが、それがどうした感はありました。それがどうしたとはイスラム世界のルールが往々にしてそれ以前の問題をもっているからです。すなわちイスラム世界に女として生まれたならば、すでに多くの枷を背負っているのであり、それらは柔道以前の問題です。例えばまずそのヒジャブをどうにかすべきであり、すべてがそれ以前の問題に見えた結果、かれらの悲しい境遇もそれがどうしたという醒めた見え方になってしまったのでした。

ただし製作者らは映画が社会的なメッセージをもっていることを自覚しており、おしつけがましさを軽減するために白黒にしてタイトルもTATAMIにして、客観性や詩的情趣を醸成しようとしています。カメラもよかったです。が、映画には「頑張っている選手に棄権しろなんて、なんてひどいんだイラン政府」という印象以上のものはなかったと思います。
共同監督兼“監督”役のザーラアミルエブラヒミは上手でしたがセリフが悪く素人みたいなアドバイスしか飛ばしません。選手役Arienne Mandiは役の設定もありますが良くなかったと思います。

とはいえメッセージには切実なものがあり批評家評も世評も高評価でした。
imdb7.4、rottentomatoes94%と96%。
個人的にはけっこう浅い映画だと思いましたが、重い主題とタイトルのTATAMIと白黒が効いた、という印象でした。

もちろん映画が内包している志に文句はありません。じっさいにイランからフランスに亡命したザーラアミルエブラヒミの実体験も投映されていると思います。
イランでは2022年9月にヒジャブを適切に着用していないという理由で当時22歳の女性が逮捕されその後死亡した事件を受けヒジャブ着用をめぐるデモが全国的に拡がりました。映画にもあるレイラがヒジャブを外して試合に挑むシーンはそうした抗議運動の延長にもあったと思います。
ただ前述したとおりイスラム世界をかんがみたときに思うのは、おおもとの経典が女性を不平等に扱っているのなら、なにもかもそれ以前の問題だということです。

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津次郎
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