劇場公開日 2025年2月28日

「不屈の魂に感動」TATAMI ありのさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0不屈の魂に感動

2025年5月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

斬新

 イランはイスラエルとは政治的に対立しており、今回のような国際的なスポーツ大会では極力両国の代表選手を戦わせないようにしているそうである。これは”イスラエル・ボイコット”と言われており、wikiにも詳しく書かれている。鑑賞後に読んでみたが、こうした例は過去に何度もあったということで驚いてしまった。
 本作はそんな事例の一つ、2019年に東京で行われた世界柔道選手権をモチーフにして作られた作品ということである。

 物語は基本的にレイラが金メダル獲得を目指すスポーツドラマの体で進む。しかし、本作はそこに様々な要素が入ってきて物語を豊穣なものにしている。
 その一つは、イラン政府からの棄権要請に抗うポリティカル・サスペンス的要素。もう一つは、レイラと夫と息子の絆を描くホームドラマ的要素である。この二つがレイラの戦いに掛け合わさることで、意外性に満ちたドラマが展開されていく。
 また、最終的にイラン政府に対する痛烈な批判を浴びせており、社会派的な気骨ある作品に仕上がっている点も注目に値する。

 映像はモノクロームで統一されており、シリアスな物語同様どこか厳粛な佇まいを見せている。
 また、ドキュメンタルなカメラワークは、キャスト陣の生々しい表情を拾い上げ、スリリングな緊張感を上手く醸造していると思った。
 中でも、特筆すべきは試合会場の照明効果で、観客席がほぼ真っ暗で何も見えないという状況が続くことである。予算の関係でエキストラを用意できなかったことによる苦肉の策だったのかもしれないが、かなりシュールな光景で、これがちょっと寓話的なテイストを持ち込んでいるのは面白い。

 試合シーンもふんだんに登場してくる。手持ちカメラで泥臭く活写しながら、ドライヴ感溢れる映像が貫かれている。引きの映像が少ないのは、若干物足りなく感じたものの、変に小手先のテクニックに走らなかったことは良いと思った。

 今作で一つ難を言えば、終盤にかけてクローズアップされるマルヤムの葛藤であろうか。それまではずっとレイラの葛藤を中心に物語が進むので、どうしてもここが弱く感じられてしまった。二人が取っ組み合いのけんかをするシーンが出てくる。ここをターニングポイントにしたかったのかもしれない。しかし、それも付け焼刃という感じがしてしまった。ここが更に熱度高く決まれば、その後のマルヤムの葛藤もすんなりと響いて来ただろう。

 キャストでは、レイラを演じたアリエンヌ・マンディの熱演が素晴らしかった。権力に決して屈しない姿にはおのずと感情移入もさせられる。特に、夫からの励ましの電話を受けるシーンにホロリとさせられた。

ありの