「史実よりも歴史の歪め返しをしたかった」開拓者たち alvoさんの映画レビュー(感想・評価)
史実よりも歴史の歪め返しをしたかった
東京国際映画祭にて鑑賞
コンペ部門
チリ、パタゴニア地方で1900年初頭に実際あった事件をモチーフに作られた作品。監督はネットでこの事件を知ったとか。作中悪として描かれる領主である富豪メネンデスとインディオたちの虐殺を行った軍人"赤い豚"マクレナンは実在し、チリでは名所の名前にもなっているという。国民の4割が独裁政権を支持している現実、どうにかしたいという監督のコメントに一番胸が熱くなった。
チリだけでは予算も足りず、実に10カ国共同制作。
テキサスのアメリカ人はインディアンを馬鹿にして、イギリス人はスコットランド人をバカにする。アメリカ人とイギリス人は張り合い、軍人の階級だけで主従が決まる。男は女を道具としか思っていない。
道を開拓するのに原住民が邪魔だから殺してこいという命令で出かけた英米混血三人組。野営しながらインディオたちを襲い、イギリス人たちとは交流しながら旅をする。一番の虐殺は語りで伝えられるが、100人規模の民族をもてなしと偽って食事で毒殺したとか。
途中、夜中になんか赤白縞模様の宇宙人現れた?なに?と思っていたらQ&Aでセルクナム族の成人式衣装と判明。よく知られているから逆に利用しようと思ったとのこと。知らんかった、判明してよかった。そして映画には出てこないが史実ではマクレナンはセルクナム族も虐殺しているらしい。
狭い画角、暗い野営、よく見えないシーンもあり追いつけないところもあった。けど、ここまで歪んだ感情を今まだ進行形で持っているチリという国。自分の無知を本当に実感する作品でした。見れてよかった。
監督のコメント: (私の解釈)
映画はプロパガンダ。ウェスタンはプロパガンダにずっと使われてきた、だから取り入れた。過去のウェスタンは白人の勧善懲悪、常に現地民は悪役だった。そうして映画を通して歴史は意図的に歪めて作られてきた。だから今回の映画は史実を伝えるということではなく、逆の歴史を作ってやるという意図もあった。チリでは来年公開。フエゴ諸島での撮影も難航したし、公開されたら認めない人も多くいるだろう。しかしチリの状況は伝えるべきだと思った。
実際のところ作品自体よりも監督の思いを聞けたことが一番心に残ったかも。映画祭って素晴らしい。