「冒頭で惚れるほどの美しさ」ゴンドラ sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
冒頭で惚れるほどの美しさ
冒頭、ゴンドラの駅舎が映された瞬間に、惚れてしまった。
全編、どの瞬間、どの場面を切り取っても色合いと明暗の対比が完璧に美しく、いつまで眺めていたい気持ちになる。
はっきりと言葉として発せられるのは、途中に出てくる「OK!」だけ。あとは、当時人物たちの行動や表情から読み取るしかないが、無声映画と違うのは、背景音がとても自然で豊かなこと。古き良きゴンドラのある村の中に、自分が身を置いている気持ちになれる。
<ここから、自分が読み取った内容に触れながら話します>
※セリフでの説明がないため、盛大に誤読している可能性もありますが…
最初、ゴンドラに棺を載せて運ぶシーンがあるが、あれはおばあさんの連れ合いのご遺体かと思いきや、実は主人公のIVAの父のものだったということか。
棺を運ぶゴンドラに対して、仕事の手を止めて祈りを捧げる敬虔な村人たちが、埋葬の時に誰も手伝わないことに驚いたが、IVAは「父を見捨てて、死に目に間に合わなかった薄情な娘」として見られていたということなら、まぁ理解できる。おばあさんが、鍵を手渡さずに地面に落とすのも、IVAが添乗するゴンドラに乗るのを躊躇うのも、「今更、なんで戻ってきた」ということなのだろう。
だが、ゴンドラの乗務員としてIVAが働き続けるうちに、おばあさんや、冒頭でIVAが歩くと窓を閉めた村人たちとも、関係はだんだん修復していく。(おばあさんとIVAは、親戚の可能性もある)
※この部分については、解答がでました。追記、再追記をお読みください。
人と人との関係ということで言えば、女の子に、手製のゴンドラを使ってプレゼントしたケーキを、「不味っ!」という顔で拒否された男の子も、IVAの手引きで一緒にゴンドラに乗ったり、グラスハープを奏でたりしながら、関係を深めていく。
同じ乗務員のNINOとは、ゴンドラのすれ違いでの形式的なあいさつから始まり、往復ごとに一手ずつ進む山頂駅でのチェスや、ランチのオープンサンドのサプライズ差し入れ、乗客がいないのを良いことにゴンドラのすれ違い時に、趣向を凝らして相手を喜ばせようとするやり取りなどを通して、恋愛関係に…。
やがて、ゴンドラは、IVAとNINOの2人によって、村人を巻き込んだ、壮大な合奏のコンダクターへとなっていく。
つまり、ゴンドラは人と人とを繋ぐ象徴であり、ゴンドラのすれ違いは、人と人との出会いや待ち合わせの象徴でもあった。
その中でただ一人、ゴンドラが関係の修復や改善に繋がらなかったのが駅長。
制服を基準にした乗務員選びなどに見える、あからさまな下心。障がい者への徹底した差別。チェス相手のNINOも、コンコンと音を鳴らすことで呼びつけるなどのマチズモ体質が、IVAとNINOの2人によって見事に拒否されていくのは、見ていて爽快。
挙げ句の果てには、逆ギレして、あろうことか彼自身の生業であるはずのゴンドラのロープを叩き切って、そのおかげでゴンドラの直撃を受け、あえなく退場していった。
優位性にあぐらをかいたり、怒りに身を任せた行為は、必ずしっぺ返しがくることを自戒させられる。
映画のラスト、ゴンドラに2人のすがたはなかったが、車椅子の彼が新たな駅長となり、男の子と女の子が海賊に扮して、ゴンドラのすれ違いを利用した遊びに励んでいるのは微笑ましかった。
きっと2人は、NINOの就職した航空会社の近くで一緒に暮らし始めたのだろうな。
出てくるモノは、みんなアナログなのだが、それが温かく、ゴンドラ自体も、手仕事でさまざまなカスタマイズができるところが、とてもほっこりする。
何回でも見返したい映画にまた一つ出会えました。
<追記>
フロワァーさんが、「棺の方は乗務員か」と書かれていて、そういえば、棺の上に乗っていたのは畳んだ制服か…とか、だから乗務員を募集していたのか…とか、スッキリしてきましたが、あのおばあさんの娘ってことでしょうか。だから、IVAにいじわるだったのかもしれません。でも、埋葬の場面は、まだちょっと疑問が残ります。
<再追記>
レビューを書く前には、色々影響を受けたくないので、他の方のレビューやパンフレットは読まずに書いているのですが、購入してあったパンフレットを先ほど読んだところ、IVAが村に帰ってきた理由について「父が亡くなったのだ」と書いてありました。また、あのおばあさんは、「父と暮らしていた女性」ということでした。IVAが戻ってきたので、家を明け渡すことになったために、あのような行動に出たということでしょう。
制服も、IVAと父が一緒に写っている写真には、ブレザーにネクタイの車掌姿の父が写っているので、棺に載せたのはそれで、下心がある駅長が、若い女性を選ぶために、別にスカートタイプのあの制服を用意したのだと結論が出ました。(とてもスッキリ!)
ワタシは自分の勘に従ってレビューしてしまいがちなので、最初の棺の主が誰だかはっきりしないけど、駅長だった父親の葬儀って書いてしまいましたが、棺の上の制服は女性ものだし、他の方のレビューを読むと全然見当違いだったのかな〜と思っておりました。このレビューであってた〜バンザ〜イ😀になりました。ありがとうございました。小さくOK❤️
そうなんです!制服が微妙です。でもあの駅長は多分ケチだからあらかじめ用意していたとは思えません。父親(もほっそり体型で身長高かった)の制服か、Ninoが何気なく用意しておいたとか?
talismanさんありがとうございます😭
でも、制服のことは見落としていたので、盛大な誤読の可能性も充分にあります。
色々考えられる幅が広いっていいですよね。