「静けさと狂騒を併せ持った美しき怪作」西湖畔(せいこはん)に生きる 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
静けさと狂騒を併せ持った美しき怪作
鑑賞中に生じた感情を率直に表すなら、それは驚きと混乱だった。まずは静かな幕開けと同時に突きつけられるドローン撮影。これには度肝を抜かれたし、前作「春江水暖」と同様、水辺の絵画的美しさに留まらない、映画ならではの動的魅力を盛り込んだシャオガン監督の芸術性に圧倒される。かくもマクロ的な視点で観客を驚かせたかと思うと、その後、物語は一転して狂騒的なまでの世俗感へ。物静かな母親が劇的に変わりゆく心情と相貌をミクロ的に捉えたカメラワークは、今こうして思い出すだけでも胸のザワめきが止まらなくなるほどだ。本作は釈迦の弟子が地獄に落ちた母を救おうとする故事に着想を得ているらしいが、だとすればこの翻案的な展開は現代中国の生々しい投影なのだろうかと感じたりも。好き嫌いはあろうし、母の辿る運命はやや先が読めるという難はあるものの、前作とやや異なる境地へ野心的に踏み出した本作を、私は「怪作」にカテゴライズしたい。
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