「一緒に食べることのかけがえのない意義」リンダはチキンがたべたい! きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
一緒に食べることのかけがえのない意義
死んだ人は暗闇にいるの?
パパも暗闇は怖い?
見えないってことは存在しないってこと?
パパも存在しないの?
このシングルマザーと遺児の物語を
「ニワトリを盗むことを容認するのか?」なんて、上っ面の道徳のレビューは僕は書かない。
夫の死後、必死になって子育てをするポーレットの、試行錯誤のワンオペの苦しさ。
その中から
「死んだパパが得意だったというチキンとパプリカのグリル」を食べてみたいと口にしてみた娘の、たっての願いを叶えようとして奔放したお母さんの頑張りに
僕は鼻の奥が熱くなった。
だんだんと遠のいていくパパの思い出を、妻と娘が「指輪をさがし」、「その料理を一緒に作る事でなんとか食い止めたい」という物語なのだ。
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昨年のことだが、
僕は新幹線に乗って親戚の子を訪ねた。
お母さんの自殺のあと、一人暮らしをしている子だ。
お母さんの、何か小さな思い出を教えて話しておくれ、と僕が問うと
彼は
「手羽先を美味しく煮るのが上手な母でした」と答え、そして言葉を継いで
「だいぶ時間も経ったし、誰もあの事に触れなくなっているので、時々こうして母のことを訊いてくれて嬉しい」と言った。
そうなのだ。これに尽きるではないか。
チキンを、そして手羽先を、
亡き人と一緒食べた思い出は、永遠に僕たちの心と体の栄養だ。
全編を通して「死と暗闇と記憶」が歌われていた。子供たちは案外まっすぐにそれを見つめ、感じ取っている。
映画の、絵の具やクレヨンで書きなぐったような粗い画面が、親を亡くした子供たちの (そして大人たちの) 心象に
ダイレクトに触れてきてくれるはずだ。
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永瀬正敏と斉藤由貴の「最初の晩餐」も、これに類する秀作だった。