「フランスのイマを活写しながら明るい未来の寓話に広げて行く」リンダはチキンがたべたい! ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
フランスのイマを活写しながら明るい未来の寓話に広げて行く
『リンダ』は母親の『ポレット』と郊外の大規模団地に住む活発な女の子。
父親は彼女が一歳の時に、食事中に突然亡くなり、
記憶はほぼほぼ無いに等しい。
が、その時の、父親が作ってくれた夕食だけはしっかり覚えている。
ある日、大事な指輪を失くしたと母親から疑いを掛けられるも、
結局は誤解とわかり、お詫びにと件のメニュー《パプリカ・チキン》をリクエスト。
ただ、約束の日は全土的なストライキでお店は全てお休み。
母娘はチキンを手に入れるために雨の中を右往左往。
果たして『リンダ』は思い出の《パプリカ・チキン》を食べることができるのか。
二人が住むのは、停電や漏水が頻繁に起こる古びた団地。
オマケに住人は移民も含めた多人種に及び
イマイマのフランス映画でも描かれる典型例。
母親は暮らしに余裕がなく、ついつい娘に辛く当たってしまう。
これも現代的な問題の一つ。
もっとも、物語りの発端である広範なストライキも
日本では今では見ることもなくなったが、
彼の地ではしっかり残っている。
こうした社会的な問題が、愉快な画面から透けて見えるのが特徴の一つ。
もう一つの特色は、太い線にべったりと単色で塗りつぶされた人物の絵柄。
精緻なリアルさを善しとするイマドキの日本のアニメとは対極。
にもかかわらず、表情は豊かで表現の躍動感も相当のもの。
全体を貫く{スラップスティック}なトーンにも合っている。
また、なんとしてもチキンを食べたい『リンダ』が繰り出す
子供らしい残酷さには驚きもする。
本来なら日延べをすれば良いのに、
娘の「どうしても今日食べたい。そう約束した」との強い意志に
母親は真摯に向き合う。
普段なら軽く一蹴するだろうに、
今回会議りは指輪を失くしたとの疑いで手を上げてしまったことや、
日頃の自身の言動の贖罪の面もある間も知れない。
勿論、父親を懐かしむ娘に応えたいとの気持ちも有ったろう。
結果引き起こされる騒動は、
警察を呼び寄せ、しかし地域住人も協力することで奇跡を生む。
その場面がなんともすがすがしい。
外へと飛び出した大騒ぎは団地の中へと収斂し、
新たな関係性も幾つか芽生える。
子供らしい純真さと、
それに報いる親の愛情が産んだ美しい寓話。